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少子高齢化により相続に関する質問が増えてきております。
今回は相続放棄の期限を過ぎた場合の事例をご紹介致します。
【具体的事例】
会った覚えもない高齢の叔母が亡くなり、私と兄が相続人である事を知りました。
兄と相談して2人とも相続放棄をすることに決め、きっと兄が私の分まで手続きをくれたと
思って安心していました。
ところが、それから1年ほど経った最近になって、「兄は相続放棄を済ませているが、私は
相続放棄をしていないことになっている」とわかりました。
相続放棄には「自己のために相続の開始があったときから3か月以内」(民法915条第1項)
という制限があるそうなので、今さら裁判所に相続放棄を申し立ててても無駄なのでしょうか?。
【回答】
民法915条第1項は次のように定められております。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について
単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は
検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
とありますので、原則として3か月の熟慮期間を過ぎてからの相続放棄は認められませんが、例外的に
本件と似たケースで相続放棄の申述が裁判所に受理された裁判例があります。
その裁判例(東京高等裁判所令和元年11月25日決定)では、簡単にいうと次のような点が
考慮されました。
・相続放棄の当事者2名がいずれも高齢(70代前半と80代半ば)である。
・他の兄弟が代わりに相続放棄の手続きをしたと信じていた。
・被相続人とは数十年会ったことがなく、その財産についての情報が不足していた。
その結果、熟慮期間の起算点につき特別に「相続放棄手続や遺産に関する具体的な説明を受けた時から」と
解釈され、相続放棄をすることが認められました。
相続の放棄の熟慮期間の起算点をどう考えるかについては、「(熟慮期間内に相続放棄をしなかったことが)
相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるについて相当な理由がある場合
(には起算点を後ろにずらすことができる)」という有名な裁判例(最高裁昭和59年4月27日)があります。
最高裁第2小法廷判決昭和59年4月27日は、債権者から、保証人死亡後にその子らに対して提起された
連帯保証債務履行請求訴訟の上告審です。
この事案における被相続人は、生前、定職につかず家庭を顧みなかったため、妻子が家を出て、その後は、
被相続人と子らとの交流は途絶えていた。被相続人は生活保護で単身で暮らしていたが、別居10年目に、
他人の借入の連帯保証人となった。債権者が、被相続人相手に連帯保証債務履行請求訴訟を提起したところ、
訴訟手続中に被相続人が死亡したので、裁判所から相続人らに受継申立書等が送られ、これによって、子らは
初めて連帯保証債務の存在を知った。
債権者は、被相続人の死亡から約1年後に当該連帯保証債務の存在を知った子らが行った相続放棄は民法
915条1項の熟慮期間が徒過した後になされたものであるから無効であると主張した。
しかし、最高裁は債権者の主張を退け、「相続人が右各事実(相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が
法律上相続人となった事実)を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に
相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態
その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無を期待することが著しく困難な事情があって、相続人
において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知った時から
熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部
又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算すべきと解するのが相当である。」と判示
した。
上記の最高裁判決は、およそ相続の対象となるべき財産が皆無であると考え、そう考えることに客観的に相当な
理由があるときは、それでもなお相続財産の有無を調査することを相続人に求めるのは酷であるから、熟慮判断を
求める前提を欠くとして、相続人を救済した。上記最高裁判決の射程範囲は、相続人が積極財産も消極財産もないと
認識していた場合に限り熟慮期間の起算点の例外を認めたものであると解されています。
【教訓】
法律は四角四面に見えても、実務的な当てはめの場面では柔軟な解決をしてもらえることもあるものです。
最初からダメと決めつけず、「すべての扉を叩いてみる」という気持ちで一緒にトライしてくれるひかり
税理士法人に是非ご相談ください。