1.医療費控除はどう変わった?
領収書に代えて、医療費の明細書が必要です
これまで、医療費控除の適用を受けるためには、領収書の添付または提示が必要でした。
平成29年分以降は、これに代えて、
- 医療費の明細書
- 医薬品購入費の明細書
を添付することとなりました。
平成31年分の確定申告までは現行通りでもOK
経過措置として、平成31年分まではこれまでと同様の領収書添付が認められますが、原則として平成29年分以降は領収書の添付等は不要となり、明細書のみで、医療費控除または新設のセルフメディケーション税制の適用を受けることができます。
申告書類がスリムに?!ただし領収書の保管もお忘れなく
医療費の明細書のフォーマットは今後国税庁HP等でアナウンスがあると思われます。これまで確定申告書に領収書を添付していた方は、今年度分から、提出書類が少しスリムになりそうですね。
ただし、申告期限等から5年間は、領収書の提示または提出を求められることがあります。各年度のものが混ざらないよう、封筒等に入れて保管されることをおすすめします。
次に、新設されたセルフメディケーション税制をご紹介します。
2.医療費控除の新しい選択肢として セルフメディケーション税制が創設されました
セルフメディケーション税制は、医療費控除の新しい選択肢として、一般家庭でも広く適用できる新しい制度です。従来の1/10程度の支出でも、所得税・住民税が戻ってくる可能性があります。
セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制とは、医療費控除の特例「セルフメディケーション※(自主服薬)推進のためのスイッチOTC医薬品控除」の通称で、平成29年1月1日から平成33年12月31日まで適用されます。これにより、従来の医療費控除が、自ら健康管理を行っている世帯にも広く利用できる制度となりました。これまで医療費控除とは縁遠かった世帯にこそ知っていただきたい制度です。
※セルフメディケーションとは、WHO(世界保健機関)において、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てをすること」と定義されています。
現行の医療費控除との併用はできません
セルフメディケーション税制は「医療費控除の特例」という位置づけであり、原則的な医療費控除と併用できません。最終的にどちらを利用すればよいのか、自身で有利な方を選択することができます。
原則的な医療費控除
所得控除額=(実際に支払った医療費) - (10万円※) - (保険金などで補てんされる金額)
ただし最大200万円まで
※総所得金額が200万円未満の方は所得の5%
〈計算例〉課税所得400万円の人が一年間に合計20万円の医療費等を支払った場合
所得控除額=20万円-10万円=10万円
10万円×所得税率20%=2万円
10万円×個人住民税率10%=1万円 →合計減税額3万円
特例としてのセルフメディケーション税制
所得控除額=(実際に支払ったスイッチOTC医薬品代金) - (1万2千円)- (保険金などで補てんされる金額)
ただし最大8万8千円まで
〈計算例〉課税所得400万円の人が一年間に合計5万円のスイッチOTC医薬品を購入した場合
所得控除額=5万円-1万2千円
=3万8千円
3万8千円×所得税率20%=7,600円
3万8千円×個人住民税率10%=3,800円 →合計減税額11,400円
所得税率は課税所得に応じて異なります。個人住民税の所得割は一律10%です。
(参考)国税庁 所得税の税率
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm
2つだけ! セルフメディケーション税制の適用要件とは
セルフメディケーション税制を利用するための要件は次の2つです。
- 年間で特定の一般用医薬品(スイッチOTC医薬品)を1万2千円超購入していること
- 所得税・住民税を納めている本人が、健康の保持増進及び疾病の予防への一定の取組を行っていること
どうやって見分けるの? スイッチOTC医薬品とは
OTCは「Over The Counter:オーバー・ザ・カウンター」の略で、カウンター越しの販売(対面販売)という意味です。スイッチOTC医薬品とは、医師による処方とされていた医療用医薬品のうち、ドラッグストア等で購入できる一般用にスイッチした(切り替わった)医薬品のことを指します。
具体的な対象商品は約1,500品目にのぼります。店頭では「セルフメディケーション」「税控除対象」と記載された識別マークの掲示や、レシート等に対象商品である旨の印字を目印にしてください。不明点は薬剤師に相談、または厚生労働省のホームページで確認すると確実です。
申告者本人がひとつクリアすればOK 一定の取組とは
厚生労働省は、健康保持増進および疾病予防への一定の取組の具体例として、次の5項目を挙げています。申告者本人がひとつでも実施すれば、一定の取組として認められます。
- 保険者(健康保険組合、市町村国保等)が実施する健康診査【人間ドッグ、各種健(検)診等】
- 市町村が健康増進事業として行う健康診査【生活保護受給者等を対象とする健康診査】
- 予防接種【定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種】
- 勤務先で実施する定期健康診断【事業主検診】
- 特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
- 市町村が健康増進事業として実施するがん検診
いざ確定申告 必要な証明書類とは
医療費控除等の添付書類が変更になったことは、すでにお伝えした通りですが、セルフメディケーション税制の適用を受ける場合は、次の事項を満たす証明書類の添付が求められます。
平成29年分から医療費控除等の添付書類が変わりました
スイッチOTC医薬品対象商品購入費に係る証明書類の記載必須5項目
- 商品名
- 金額
- セルフメディケーション税制対象商品である旨
- 販売店名
- 購入日
レジから発行されるレシートの商品名の横に「★」のようなマークを付し、それがセルフメディケーション税制対象商品を示す旨が記載されていなければなりません。
一定の取組を行ったことを明らかにする証明書類の記載必須3項目
- 氏名
- 取組を行った年
- 取組に係る事業を行った保険者、事業者若しくは市区町村の名称又は取組に係る診察を行った医療機関の名称若しくは医師の氏名
(ご参考)厚生労働省ホームページ セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
3.スムーズでよりお得な医療費控除のために 今すぐできることは
世帯全員が健康に過ごすことが第一ですが、年末までは、原則的な医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを選んでも、スムーズで確実な確定申告ができるよう備えておきたいものです。
今すぐできるおすすめの対策は、世帯にひとつ、その年の医療費控除袋を準備することです。セルフメディケーション税制の対象商品を含む・含まないを問わず、また結果の良否を問わず、レシートや結果通知書は必ず入れる。これは医療費控除の手続きの変更への対応としても有効です。1枚1枚の積み重ねが還付金額に直接結びつきます。ぜひ実践してみてください。
※当社では、顧問契約を締結しているお客様以外の個別の税務相談には対応いたしかねます。何卒ご了承ください。
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