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スタッフコラム

京都事務所
2023.04.17|税制改正

インボイス制度の2割特例の注意点とは?

令和5年度税制改正(令和5年3月28日成立)において、令和5年10月1日より開始されるインボイス制度の負担軽減措置として、「2割特例(小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置)」の導入が公表されました。今回は、この2割特例の内容について深掘りして解説をしていきます。

1. 2割特例とは?

 消費税の免税事業者がインボイス発行事業者の登録をし、課税事業者となった場合の負担軽減を図るため、時限措置として最長3年間(令和8年9月30日の属する課税期間まで)消費税納税額を売上税額の2割に軽減する措置です。

 

 本来は消費税の申告上、売上とともに原価・経費も把握する必要があるところが、この軽減措置により、業種に関わらず、売上・収入を把握するだけで消費税の申告が可能となることから、消費税の簡易課税制度を選択する場合よりも事務負担が大幅に軽減されることとなります。

 

 なお、2割特例の適用対象者であれば、消費税の申告書にその適用を受ける旨の付記をするのみで適用が受けられ、申告時にその適用を受けるか否かを選択することができます。

 

 従って、免税事業者がインボイス発行事業者の登録をし、消費税の申告納税が必要となった場合、令和8年9月30日の属する課税期間までの各課税期間における消費税の計算方法は、本則課税、簡易課税※、2割特例の中から、事務負担や納税負担を考慮していずれかを選択することとなります。

 

※一定の場合を除き、簡易課税制度の利用にあたっては、当課税期間が始まるまでに簡易課税制度選択届出書を税務署に提出する必要があります。

2. 2割特例の適用対象者とは?

 2割特例はインボイス発行事業者の登録をすればどの事業者でも利用できるといった制度ではなく、下記の全ての要件を満たす事業者のみが利用できる制度となります。

 

①インボイス発行事業者の登録を受けていること
②仮にインボイス発行事業者の登録がなければ、事業者免税点制度により消費税の課税事業者にはならなかったこと
③課税期間の短縮特例の適用を受けていないこと

 

 従って、例えば下記のようなインボイス発行事業者は2割特例の利用ができないため注意が必要です。

 

・基準期間における課税売上高が1,000万円超の場合
・資本金が1,000万円以上の新設法人である場合
・調整対象固定資産又は高額特定資産を取得したことにより、課税事業者が強制される場合
・課税事業者選択届出書を提出し、インボイス制度施行前(令和5年10月1日前)から課税事業者を選択している場合(ただし、その課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出し、その課税期間から課税事業者選択届出書の効力を失効させることで、令和5年10月1日より前までの期間について免税事業者となり、令和5年10月1日からインボイス発行事業者の登録により課税事業者となる場合は、令和5年10月1日以降の期間について2割特例の利用ができます。)

3. 2割特例の注意点とは?

【インボイス発行事業者の登録申請とともに簡易課税制度選択届出書を提出している場合・提出を考えている場合】
 
 ここからは筆者の個人的な見解となりますが、2割特例の適用が受けられる場合、簡易課税制度における第1種事業を営む事業者以外の事業者にとっては、簡易課税制度で消費税の納税額計算をするよりも、2割特例で納税額計算をする方が有利となります。また、簡易課税制度は、制度上、たとえ設備投資があった場合や業績悪化の場合でも、中間納付の還付など一定の場合を除き、基本的には消費税還付は起こり得ないこととなります。従って、第1種事業を営む事業者以外の事業者については、消費税の計算上、損をしないために、「本則課税と2割特例の選択適用ができる状態にしておくこと」が重要と考えます。消費税の計算上、納付となる場合は2割特例で申告し、不測の事態により還付となる場合は本則課税で申告する、という選択ができるようにしておく方が良いと言うことです。

 

 なお、簡易課税制度とは、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の中小規模の事業者の事務負担を軽減するための消費税の計算方法の制度で、売上に係る消費税額から事業区分ごとに定められた一定の割合(みなし仕入率)で計算した仕入に係る消費税額を控除して消費税の納税額を簡便的に算出することができる制度です。

 

例)コンサルタント業を営む事業者がサービス提供で税込880万円を売り上げた場合(第5種事業)

売上に係る消費税額:80万円
仕入に係る消費税額:80万円×50%=40万円
消費税の納税額:80万円▲40万円=40万円

 

 例えば、第1種事業に属する卸売業であれば売上に係る消費税額から90%分の仕入に係る消費税額を控除できるため、納税額としては残り10%となります。第3種事業に属する製造業であれば売上に係る消費税額から70%分の仕入に係る消費税額を控除できるため、納税額としては残り30%となります。

 

 このことを2割特例でも同様に考えると、2割特例では売上に係る消費税額から事業区分に関わらず80%分の仕入に係る消費税額を控除できるため、納税額としては残り20%となります。従って、簡易課税制度を適用している事業者については、2割特例より有利な事業区分は第1種事業のみと言うことになります。

 

(国税庁:簡易課税制度の事業区分)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6509.htm

 

 もしも、インボイス発行事業者の登録申請とともに簡易課税制度選択届出書を提出している場合は、インボイス登録開始日の属する課税期間中に簡易課税制度選択届出書に関する取下書を提出することで、その簡易課税制度選択届出書の提出はなかったものとされ、本則課税で計算することが可能となるため、思い当たる節のある事業者様は、今一度ご確認頂くのが良いと考えます。

 

【2割特例の適用可能な期間】

 

 2割特例の適用可能な期間は、インボイス制度開始日(令和5年10月1日)の属する課税期間から令和8年9月30日の属する課税期間まで適用できることとされています。そのため、2割特例の適用対象者であることの大前提はあるものの、個人事業者であれば最長で令和8年12月31日まで(つまり、令和8年度の確定申告まで)2割特例が適用可能であり、法人であれば最長で令和8年9月30日の属する課税期間まで2割特例が適用可能となります。

 

 ここからは筆者の推測ですが、法人の場合は令和8年9月30日の属する課税期間まで2割特例の適用が可能であるため、例えば、8月決算法人であれば、令和8年9月1日から令和9年8月31日までの課税期間まで2割特例の適用を受けることが可能となります。

 

 上記のことから、2割特例が受けられる比較的小規模な法人事業者は、8月決算法人が増えるのではないでしょうか。

4. まとめ

 今回はインボイス制度における2割特例につき、深掘りして解説させて頂きました。事務負担の軽減や納税負担の軽減を目的とした本制度については、その制度を利用するためには2割特例の適用対象者である必要があります。2割特例の適用が受けられると思っていたのに、ふたを開けてみれば2割特例の適用対象者に該当せず、その適用が受けられなかったとならないよう、事前に消費税の適用関係についてご確認頂くのが良いと考えます。

 

<参考>
財務省 税制関係パンフレット 令和5年度税制改正(令和5年3月発行)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei23.html

 

国税庁 No.6505 簡易課税制度
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm

 

(文責:京都事務所 森)

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