1.生命保険を活用した名義変更プランとは
法人が加入した低解約返戻金型と呼ばれる逓増定期保険について、一定の期間を経たあとに契約者を法人から役員等の個人へ契約名義を変更します。
なぜ、法人で契約したものを個人へ名義変更をするかというと、税法上の保険の評価方法を上手く活用していることがあげられます。生命保険契約を法人から個人へ契約者変更した際の評価方法は所得税基本通達36-37において以下のようになっております。
■保険契約等に関する権利の評価(所得税基本通達36ー37)
使用者が役員又は使用人に対して支給する生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約に関する権利については、その支給時において当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額)により評価する。
このように「低解約返戻金型」の保険では支払済みの保険料に対して解約金が低いタイミングで保険契約を個人へ変更します。
契約変更後、解約金が上昇したタイミングで保険契約を解約しますと、新たな契約者(個人)は支払った保険料に対して大きな解約返戻金を手にすることができます。この場合の解約返戻金は一時所得として申告を行いますので、税負担も少なく済みます。
法人側は資産計上されていた保険積立金と契約変更時に個人から受け取る金額との差額を雑損失(または雑収入)として計上することができます。
2.名義変更プランはどのようにかわるのか
令和3年4月28日に国税庁よりパブリックコメントの募集が始まりました。
ここでは法人から個人へ保険契約を名義変更する際の経済的利益について、次のように評価方法を変更するとされています。
国税庁から発表された改正案の概要と適用時期については以下のようになっております。
■国税「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)
(保険契約等に関する権利の評価)に対する意見公募手続の実施について
○改正案の概要
法人税基本通達では、保険契約等に関する権利について、支払保険料の一部を前払保険料として資産に計上する取扱いが定められています。
このような法人税基本通達の取扱いを踏まえ、使用者が、役員又は使用人に対して、解約返戻金の額が著しく低いと認められる次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、次の金額で評価することとします。
(1) 支給時解約返戻金の額が支給時資産計上額の 70%に相当する金額未満である保険契約等に関する権利を支給した場合には、支給時資産計上額により評価する。
(2) 復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等に関する権利を支給した場合には、支給時資産計上額に法人税基本通達9-3-7の2の取扱いにより使用者が損金に算入した金額を加算した金額により評価する。
(注1)
「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうち当該保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金などで処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいいます。
(注2)
今回の見直しの対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としていますが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討します。
○適用時期
改正後の所得税基本通達の取扱いは、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用します。
(注)法人税基本通達9-3-5の2の取扱いは、令和元年7月8日以後に締結する保険契約等について適用するとされていることから、
同日前に締結した保険契約等は、原則として、見直しの対象にならないものと考えます。
3.改正後の注意点
以上が国税庁から発表された改正案の概要と適用時期になります。保険契約等については令和元年7月8日以後に締結したものが対象となり、予定されている税制改正日以降(令和3年7月〜)に法人から個人へ名義変更を行うと改正後の評価ルールが適用されます。
このため、改正後に名義変更を行った保険契約等については、従来の評価方法が使えないため法人・個人ともに注意が必要です。
(文責:札幌事務所 横山)
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