1.法改正の背景
日本では近年、少子高齢化が急速に進行し、人手不足が深刻な課題となっています。そのような中、育児や介護を理由に優秀な従業員が職場を離れるケースが増加しています。優秀な人材の離職は企業にとって非常に大きな損失です。
この課題に対応するため、厚生労働省は法改正を通じて「男女が共に仕事と育児・介護を両立できる環境づくり」を目指しています。
具体的には、子どもの年齢に合わせて柔軟に働き方を選択できるよう制度を拡充し、企業に対して育児休業の取得状況の公表義務の対象範囲を拡げ、次世代育成の支援策を強化しています。また、介護離職を防ぐため、仕事と介護の両立を支援する制度の充実を図っています。
企業には、「従業員が柔軟に働き方を選択できる制度や環境の整備」が義務付けられ、制度が実効性をもって活用される仕組みを整えることが求められます。法改正の背景や趣旨を理解し、単に法令を満たすだけでなく、人材の維持・定着を目指した積極的な経営戦略として取り組むことが重要です。
2.主な法改正内容
【育児に関する改正】
4月
・子の看護休暇が「学級閉鎖」「学校行事(入園式等)」でも利用可能になります
・所定外労働の制限(残業免除)が小学校就学前の子まで対象拡大されます
10月
・育児期の柔軟な働き方を実現するための措置として以下5つの選択し講ずべき措置の中から
2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。
(①始業時刻等の変更、②テレワーク等、③保育施設の設置運営等、④養育両立支援休暇、⑤短時間勤務制度)
・3歳未満の子を養育する労働者に対し、選択した措置について個別周知・意向確認が義務化されます。
・従業員からの妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の個別の意向聴取が義務化されます。
【介護に関する改正】
4月
・介護離職防止のための雇用環境整備(例:相談窓口の設置、研修実施等)が義務化されます。
・介護に直面した旨の申出をした従業員への休業・介護支援制度の個別周知・意向確認が義務化されます。
・介護に直面する前の早い段階(40歳等)への情報提供が義務化されます。
3.法改正対応のメリット
法改正への対応は、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらします。
【企業のメリット】
①人材の定着率・継続性の向上
育児や介護により離職を防止し、優秀な人材を維持することができます。
②従業員の帰属意識の向上
柔軟な勤務制度の導入により従業員満足度が高まり、組織への帰属意識が向上します。
③採用競争力の強化
企業ブランドの価値を高め、働きやすい環境整備が企業の魅力となり、特に若手人材の採用力向上につながります。
【従業員のメリット】
①キャリアと家庭の両立が容易になる
休業によるキャリア中断を防ぎ、ライフステージに応じた柔軟なキャリア設計が可能になります。
②キャリア形成の自由度が高まる
制度の拡充により、仕事との両立が容易になり、自分らしい働き方で長期的なキャリアを築けます。
③継続したキャリアップが可能になる
休業取得後の復職を支援する仕組みの整備により、中長期的なキャリアアップを実現しやすくなります。
4.成功事例のご紹介
多くの企業が従業員の育児や介護を理由とする離職の防止や職場環境の改善に向けてさまざまな工夫を凝らしています。
実際に取り組みを行い、制度の浸透と利用促進に成功した企業の具体的な事例をご紹介いたします。
[成功事例]
・ 専門家による「介護相談会」や「介護セミナー」の開催で従業員の不安解消・職場離脱防止に成功
・ 育児・介護に関する制度ガイドブックを作成し、制度の浸透を図る 等
出典:厚生労働省 働き方改革特設サイト CASE STUDY 中小企業の取り組み事例
URL 厚生労働省|働き方改革 特設サイト 中小企業も働き方改革 ~成功の秘訣はやわかりガイド~
出典:経済産業省ウェブサイト 令和6年度「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」事例集
5.最後に
今回の法改正に「対応が難しい」と感じている経営者の方は多いと思います。しかし、重要なのは「従業員が制度を活用できる職場づくり」を目指すことです。法改正を機に、社員の働きやすさを高め、人材確保や定着につなげるチャンスと捉えてみてください。
また制度の整備から運用、研修実施まで、一貫した対応には専門家の力を活用することをお勧めします。弊所では制度設計から運用支援まで幅広く対応していますので、制度構築や運用に関してお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
(文責:京都事務所 村上)
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