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スタッフコラム

東京事務所
2021.10.18|お知らせ

働くシニアの在職老齢年金

公的年金制度はとかく複雑に感じますので、その仕組みを正しく理解している人は決して多くないと思います。
公的年金を給付の種類で分類すると、老齢年金、障害年金、遺族年金の3種類ですが、定年を迎えたシニアに関係が深いのは老齢年金です。定年後も働き続ける場合は、老齢年金の制度のうち、特に「在職老齢年金」について良く知っておく必要があります。
この「在職老齢年金」は、2022年に施行される年金制度改正法により変わりますので、働くシニアのために、老齢年金の全体の仕組みと、改正により「在職老齢年金」がどう変わるのかを説明します。

1.老齢年金

65歳から受け取る年金を老齢年金といいます。

老齢年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金に分かれています。

2.老齢基礎年金

老齢基礎年金の仕組みは比較的シンプルです。

年金保険料の受給資格期間(保険料納付済期間+保険料免除期間+合算対象期間)が10年以上であれば、働いていても65歳から制約なしで老齢基礎年金を受給できますので、働くシニアに不利になることはありません。

3.老齢厚生年金

老齢厚生年金の仕組みは複雑です。

複雑になっている要因として、「特別支給の老齢厚生年金」と「在職老齢年金」の併存が挙げられます。

 

(1) 特別支給の老齢厚生年金

老齢厚生年金も原則として65歳から受給開始ですが、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)を満たし、厚生年金の被保険者期間が1年以上で、男性は1961年4月1日以前、女性は1966年4月1日以前の生まれであれば、60~64歳に「特別支給の老齢厚生年金」を受給できます。これは、1985年の改正により老齢厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた際に、受給開始年齢を段階的にスムーズに引き上げるために設けられた特別な移行措置です。

60歳になったらすぐに「特別支給の老齢厚生年金」を受給できるわけではなく、受給開始年齢は生年月日によって徐々に引き上げられ、60~64歳の一定の年齢で受給開始になります。

また、男女で生年月日に5年の差があるのは、1954年に老齢厚生年金の男性の受給開始年齢が55歳から60歳に引き上げられた際に、女性の受給開始は55歳に据え置かれたことに起因しています。当時の女性の定年は55歳が一般的だったため、女性のみ据え置かれたと言われています。現在は男女ともに受給開始が65歳に定められていますが、このときの影響で、受給開始を65歳に引き上げるための移行措置が男女で5年差になっています。

 

(2) 在職老齢年金

60歳以降も厚生年金保険の被保険者として働き続ける場合には、職場からの収入によって、支給される老齢厚生年金額が減額調整されます。減額調整後の老齢厚生年金(「特別支給の老齢厚生年金」を含む)のことを「在職老齢年金」と呼びます。

「在職老齢年金」は、働いて収入を得るほど受け取る年金が減額される制度ですので、定年後に働く意欲を削ぐものですが、2022年4月からの年金制度改正法により、60~64歳の減額調整が緩和されます。

4.現行の在職老齢年金

老齢厚生年金は下記の基本月額と総報酬月額相当額に応じて、減額調整(年金額の一部または全部が支給停止)されます。

 

◇基本月額

年金額を12で割った額(つまり年金額の1ケ月分)

◇総報酬月額相当額

毎月の賃金(標準報酬月額)+ 1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額(つまり年収の1ケ月分)

 

(1)60~64歳の在職老齢年金

基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円を超える場合、「特別支給の老齢厚生年金」について下表の金額が支給停止になり、満額を受け取ることができなくなります。

いわゆる“28万円の壁”です。

基本月額

総報酬月額相当額

支給停止額(月額)

28万円以下

47万円以下

(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)✕1/2

47万円超え

(47万円+基本月額-28万円)✕1/2+(総報酬月額相当額-47万円)

28万円超え

47万円以下

総報酬月額相当額 ✕1/2

47万円超え

47万円✕1/2+(総報酬月額相当額-47万円)

 

(2)65歳以上の在職老齢年金

基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円を超える場合、老齢厚生年金について下記の金額が支給停止になります。

いわゆる“47万円の壁”です。

 

(総報酬月額相当額+基本月額-47万円)✕1/2

5.改正後の在職老齢年金

改正後も“壁”自体は継続しますが、60~64歳の“28万円の壁”が無くなり、65歳以上と同様に“47万円の壁”に一本化されます。

すなわち、年齢によらず下記の金額が支給停止になります。

 

(総報酬月額相当額+基本月額-47万円)✕1/2

6.改正の恩恵を受ける対象者

「在職老齢年金」の改正の恩恵を受けるのは、「特別支給の老齢厚生年金」を受給する60~64歳の働くシニアです。男性は1958年4月2日~1961年4月1日の3年間、女性は1958年4月2日~1966年4月1日の8年間に産まれた世代で、定年後も厚生年金保険の被保険者として働く人が対象になります。

その結果、国の年金支給額は増えますが、対象者は時間の経過とともに減少しますので、年金財政への悪影響は小さいと言われています。

7.特別支給の老齢厚生年金を受給するための手続き

老齢年金は、受給権を得たときに自動的に受給できるわけではありませんので、申請手続きが必要です。

「特別支給の老齢厚生年金」については、受給開始年齢(60~64歳の一定の年齢)に到達する誕生日の3ケ月前に日本年金機構から申請書が送付されますが、誕生日前日以降でないと提出できませんので、提出を忘れないよう注意が必要です。

年金を受給できるのは65歳からと思い込んで、あるいは働いて給料を得ている間は年金をもらないと思い込んで、送付された申請書を放置してしまい、もらえる年金をもらい損ねるケースが意外に多いそうです。

“28万円の壁”のため「特別支給の老齢厚生年金」の申請を諦めていた人もいるかもしれませんが、改正の恩恵を受けるためには申請が必要です。

申請書は約20ページに及ぶ分厚いもので、それだけでも面食らいそうですが、聞き慣れない年金用語も満載で、うんざりするかもしれません。自分で申請するのが不安な場合は、年金事務所や社会保険労務士等の専門家にご相談されることをお勧めします。

8.まとめ

“壁”が47万円に一本化されることで、「在職老齢年金」の仕組が簡素化します。これまで法改正の繰り返しによって、経過措置・例外措置を多数設けて新旧制度を混在させ、複雑化の一途を辿っていたと思われる公的年金制度が、ほんの少しですが、分かりやすい方向に傾いたと言えるかもしれません。

一方、平均寿命の延びと年金財政の悪化に伴い、老齢年金の受給開始を70歳に引き上げる噂がちらついています。受給開始を60歳から65歳に引き上げるための現行の移行措置が落ち着いた頃に、今度は65歳から70歳に引き上げるための新たな移行措置がスタートするかもしれません。

受給者が老齢年金を正しく理解するのが難しい状況が続きそうで、受給漏れや受給額の誤計算があっても気付かずに損をする受給者が後を絶たないのではないかと、憂いています。

(文責:東京事務所 力武)

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