女性問題を抱える政党代表が主張する「年収103万円の壁」問題ですが、これを政策協議に盛り込むかどうかの調整が始まっているようです。政権与党は、これから本格化する来年度の税制改正に向けた議論に先だって103万円の壁の見直しの具体案についてヒアリングした上で対応していきたいとのことですが、その中身が基礎控除の引き上げなのか、それとも給与所得控除の見直しを伴うのかが判然としません。
前回のコラムでは基礎控除の趣旨について述べましたので、今回は給与所得控除について触れることにします。給与所得についても事業所得と同様に収入から必要経費を差し引いた残額に課税するのが理屈ですが、6千万人を超える給与所得者が各自の必要経費を個別に集計した上で収入と合わせて申告するとなると、これは結構大変なことです。申告する側もですが、申告される側、つまり課税当局にしても「そんなに大量の申告はちょっと勘弁してほしい」となるわけです。そこで、個別必要経費の集計に代えて給与収入の多寡に応じた概算の経費相当額を控除することにしたのが「給与所得控除」です。
もっとも、給与所得控除には概算経費控除の他に次のような要素も含まれるとされています。例えば、給与所得者は源泉徴収という形で毎月納税していますが、事業所得者は原則として年に一度の納税ですから、前払い分の金利相当額が含まれていると言われます。さらに、給与所得は収入がガラス張りという意味で他の所得よりも捕捉率が高い分、それに見合うインセンティブを付与するものだとも言われます。つまり、このような複数の要素から構成されているのが給与所得控除の本質なのです。
こうした本質を理解する者からしますと、令和2年分から下限額が65万円から55万円に10万円引き下げられたり、遡れば平成29年分から上限が220万円に制限されたりといった根拠なき丸い数字で手を加えられることに強い違和感を禁じ得ません。前回、基礎控除は最低生活費とのバランスで考えるべきだと述べましたが、給与所得控除についても、その本質あるいは趣旨に沿って見直すべきだと思います。