セブン&アイ・ホールディングス(HD)がカナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)からM&Aの提案を受け、その是非を検討しています。セブン&アイHDは、公正性を担保するため、独立社外取締役のみで構成する特別委員会でACTの提案に対する賛否判断を示すとのことです。同委員会は、現経営陣による経営継続とACTによる新たな経営のどちらが企業価値や株主の利益を高めるかについて検討し、M&Aの条件審査とともにACTとの交渉も担うことになるのだと思います。
先週8月30日のセブン&アイHDの株価は2,098円でしたから、これに同社の発行済株式総数約26億3千万株を乗じますと、時価総額はザッと5兆5,000億円になります。買収価格が幾らになるのか知る由もありませんが、同社の2024年2月期の連結損益計算書からEBITDAは約1兆円と計算されますから、仮にEV/EBITDA倍率を10倍とすると約10兆円となり、そこから実質有利子負債約2兆円を差し引くと「8兆円」という金額が算出されます。おそらく買収価格はこのあたりをめぐる攻防になるのではないでしょうか。
いずれにしても私たちにとっては縁遠い数字ですので、話題を中小企業のM&Aに転じますが、某M&A仲介会社の資料によると、その件数は2023年で4,015件、2024年1-6月で2,321件となっています。10年前には年間2,000件強でしたから倍増しているのが実情です。その背景に「経営者の高齢化」と「後継者難」といった売手側の事情があることに加えて、「成長戦略としての企業買収」という買手側のニーズが高まっていることも見逃せません。
このように件数が倍増する中小企業のM&Aですが、課題がないわけではありません。売手側・買手側双方の当事者間において、最終契約に定めた事項の不履行等のトラブルが発生する事例も報告されていますし、個人、法人合わせて2,700社を超える仲介業者が提供する業務の内容や質とその対価である手数料について不透明なケースも少なくないと言われています。これらの課題に対処するため、中小企業庁が先月「中小M&Aガイドライン」を改訂し、「第3版」にバージョンアップしたことを確認しておきたいと思います。