先週5月10日に2024年版の中小企業白書と小規模企業白書が中小企業庁のホームページで公開されました。これらは、それぞれ中小企業基本法と小規模企業振興基本法に基づいて毎年国会に提出される年次報告の略称で、近時の中小企業の動向や経営課題、それらへの取り組み事例や施策が紹介されています。同庁による2024年版の両白書の特色は「中小企業・小規模事業者の現状と直面する課題、今後の展望として、中小企業が環境変化を乗り越え、経営資源を確保して生産性の向上に繋げていくための取組や、成長につながり得る投資行動とそのための資金調達、小規模事業者が売上げを確保し、今後も事業を持続的に発展させていくために必要となる取組、事業の継続に欠かせない資金と人手を確保する取組、支援機関の役割と体制の強化について、分析を行いました。」とのことです。
そして、中小企業白書のポイントは「成長する中小企業の行動を分析すると、企業の成長には、人への投資、設備投資、M&A、研究開発投資といった投資行動が有効である。また、成長投資に伴う資金調達手段の検討も必要である」とされ、小規模企業白書のポイントは「小規模事業者は、中小企業と比べ厳しい経営環境にある中で、コストを把握した適正な価格の設定や、顧客ターゲットの明確化に取り組むことで、売上高の増加につながることが期待できるほか、支援機関の活用も効果的である。また、新たな担い手の参入も生産性向上の効果が期待できる。」とされています。
もっとも、両白書の全文は各々700ページ近くにも及ぶ大部で非常にボリュームがあり、通読するのも骨が折れますので、ここは同庁がとりまとめた「概要版」を一読するほうがよさようです。 「概要版」で目にとまったのは、中小企業の動向として業況判断DI(前年同期と比べて、業況が「好転」と答えた企業の割合から、「悪化」と答えた企業の割合を引いたもの)は高水準で推移しているとしながらも、人手不足が深刻化していることを指摘している箇所です。そして、今後の展望として、就業者数の増加が見込めない中で競争力を維持するためには、省力化投資や単価の引上げを通じて生産性を向上させていく必要があることを強調しています。
確かに異論はないものの、「単価の引上げを通じて生産性を向上させていく」と口で言うのは簡単ですが、その実態について興味あるデータが示されていました。それは、「賃上げの原資となる業績の改善が見られない中で、賃上げを行う企業が増加している」という事実です。その理由に「人材の確保・採用」や「物価上昇への対応」が挙げられていましたが、要は「背に腹は代えられない」ということだと思います。しかし、それが結果として事業者の体力を消耗させることになったのでは元も子もありません。両白書が、その点に対して有意な提言を行っているのかどうか、もう少し読み込んでみる必要がありそうです。