今年の税制改正の目玉は「定額減税」のようです。物価高に伴う国民負担の軽減を図るための措置とのことですが、ご承知のように所得制限が設けられていて、今年の所得金額が1,805万円(給与収入で2,000万円)を超える人は蚊帳の外とされています。要は高収入の世帯は物価高など関係ないだろうと言うことです。しかし、より多くの消費をしているのは高収入の世帯であることを考えると、彼らの消費意欲に水を差したのは得策とは言えないように思います。
それはさておき、所得制限の説明に「1,805万円(給与収入で2,000万円)」とありますが、この二つの数字の差額である195万円が何者かご存知でしょうか。これが「給与所得控除」と言われるもので、給与所得を得るための概算の経費相当額と説明されることが多いようです。しかし、それだけではなく源泉徴収という形で所得税を毎月前払いしていることの金利とインセンティブが含まれていますし、事業所得等に比べて給与所得の捕捉率が高いことに対する負担調整の意味もあるのです。
ところが、この給与所得控除の額自体は過去数次にわたって縮減されてきました。雇用形態の多様化等に伴って、就業から得られる所得は給与所得のみならず事業所得や雑所得に分類されることも増える中で、もはや給与所得のみに負担調整をする意味合いは希薄化しているというのが理由です。結果として、1998年当時の所得金額1,805万円は給与収入で2,150万円前後であったのが、2016年当時では2,035万円になり、そして現在は2,000万円にまで圧縮されたというわけです。
さて、定額減税の所得制限の説明に(注)が付されていることにも注意が必要です。その(注)には「所得金額調整控除の適用を受ける方は、2,000万円ではなく2,015万円となります」とあります。この15万円は「所得金額調整控除」といって2020年分から導入されたもので、身近な適用例では、23歳未満の扶養親族がいる場合が該当します。注意しておくべきは、給与収入が850万円を超える場合に限るという点です。導入の背景については割愛しますが、要は高収入世帯に対して、給与所得控除を引き下げたかと思えば、その一方で新たな調整控除なるものを導入したりと、制度は複雑怪奇なものになっているということです。もっとも、税制は複雑怪奇であってこそ、税理士稼業が成り立つとも言えるのですが(笑)