国税庁の「会社標本調査結果」によりますと、2023年3月末現在における株式会社数は約261万社とのことです。合名会社や合資会社等が252千社ほどですから、圧倒的多数が株式会社と言うわけです。一方、日本取引所グループのホームページでは、上場会社数は3,918社(2023年11月27日現在)と公表されていますから、全株式会社数に占める割合は0.15%程に過ぎません。その意味で、上場会社は選りすぐられた優良企業であると考えられているようです。
株式会社が順調に成長し、さらなる事業展開を企てる上で「上場」という選択肢を検討することは当然の成り行きとも言えます。たとえば、証券市場からの直接的な資金調達はもちろん、知名度の向上による市場浸透や優秀な人材の確保など、そのメリットは少なくありません。前出の日本取引所グループのホームページによりますと、2023年に新規に上場した株式会社は既に93社を数えるとのことです。既存の上場会社はもちろん、こうした新規上場会社が私たち監査法人にとっての新規顧客になっていることも、また事実です。
ところで、ここ1週間ほどの間に非上場化を決断をした会社のことが話題になっています。例えば、大正製薬HDやベネッセHD、シダックスなど業種や規模は違いますが、いずれもMBO(Management Buy-Out)という手法で現在の経営陣が市場で流通している株式を買い取って非上場化するというわけです。大正製薬HDのプレスリリースによりますと、「上場を継続する限りは株主を意識した経営が求められ、短期的な利益確保・分配への配慮が必要になることから(中略)中長期的な施策実行の足枷となる可能性が高い」ことや「株式の上場を維持するために必要な費用(中略)が増加しており、当該コストは当社グループの経営上の更なる負担となる可能性がある」ことなどを理由に非上場化を目指すとしています。
筆者は、かつて関係した会社がMBOによる非上場化を選択した理由を今でも鮮明に覚えています。それは、①IR活動を通じて経営戦略等の企業情報を提供すればするほど競合他社に模倣され易くなり収益の機会損失に繋る、②もはや大規模な資金調達の必要性がない、③既にブランド力や信用力等も備えることができた、というわけです。そして、次の件(くだり)には頷くほかはありませんでした。それは、「④上場を維持するためのコスト(有価証券報告書等の継続開示に係る費用や監査法人に対する報酬等)の増大が新たな経営負担になる」。既に10年以上も前の話ですが、株式の非上場化を目指す理由は昔も今もあまり変わりません。あえて言えば、「物言う株主」が存在感を増していることでしょうか。