解剖学研究の第一人者が著した「バカの壁」と題する書籍が、文字通り「バカ売れ」してベストセラーになりました。なにしろ初版以来20年にわたって売れ続け、総発行部数は460万部を超えて歴代ベストセラー第5位になっているそうです。「バカの壁」という刺激的なタイトルが奏功した事例でもあり、書籍は内容もさることながら、そのタイトルによって売れたり売れなかったりするものだということを改めて思い知らされます。
それはともかく、「バカの壁」とは何かというと、賢い人とそうでない人を分ける壁のことだそうです。巷間、「話せばわかる」と言われますが、相手が聞く耳を持って理解しようとしなければ、いくら話しても分かってはもらえず、分からせようとする努力が徒労に終わることが少なくないといいます。つまり、自分の知らないことや分からないことを理解しようとしないのがバカな人、自分の知らない世界や分からない事柄を積極的に理解しようとするのが賢い人、その間に「バカの壁」があるというわけです。
さて、いま「年収の壁」が話題になっています。「年収の壁」とは、パート収入が一定額を超えると配偶者の扶養から外れて新たに社会保険料等の負担が生じて手取り額が減ることから、これを敬遠して就業調整をすることです。具体的には、「106万円の壁」(厚生年金・健康保険が絡むケース)とか「130万円の壁」(国民年金・国民健康保険が絡むケース)と言われていますが、せっかくの労働力が制度設計の歪みによって消失してしまっているのですから、社会的には大きな問題だと言わざるを得ません。
大きな問題であれば、その解決には制度の抜本的な見直しが必要になるはずですが、俎上に上がっている対応策には首を傾げざるを得ません。なにしろ、「106万円の壁」に対しては保険料相当額の「キャリアアップ助成金」を支給し、「130万円の壁」には「被扶養者認定を猶予する」ことで当面を凌ぐのだそうです。カネをばらまいたり制度の適用条件を曖昧にするなど小手先の弥縫策に過ぎないことは誰の目にも明らかです。どうやら、賢い国民とそうでない政治の間にも「バカの壁」が屹立しているようです。