私たち公認会計士や監査法人が監査の対象としているのは、上場会社をはじめとする金融商品取引法の規制を受ける会社や会社法上の大会社のほかに「学校法人」があることは余り知られていないようです。私立学校振興助成法第14条第3項は「…所轄庁の指定する事項に関する公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付しなければならない。ただし、補助金の額が寡少であつて、所轄庁の許可を受けたときは、この限りでない」として、一定額以上の補助金が交付されている学校法人には監査が義務付けられています。
この私立学校振興助成法は昭和51年に施行されたもので、当時の高度経済成長下で人口が急増する中、全国で多数の学校法人が設立されたのですが、財政的には脆弱なところも少なくなく、十分な教育環境が整えられない危惧があったことから、公的資金によって運営を支援し教育水準の維持向上を図ることを目的としていました。そして、この私学助成、つまり学校法人に交付される補助金が本来の目的で使用されているか否かについて公認会計士又は監査法人の監査意見が必要とされたのです。
ところで、読者諸兄は学校法人に交付される補助金の額がどれぐらいかご存じでしょうか。開示されている令和4年度のデータによると大学で最も多いのは早稲田大学で約90億円、次いで慶應義塾大学の約84億円となっています。そして、昭和大学や順天堂大学、北里大学といった医学部を擁する大学が上位に並びます。東京慈恵会医科大学は医学部だけで学生数も800人ほどですが、33億円超の補助金が交付されていますから、学生1人当たりにすると4百万円を超える公的資金が投入されていることになります。一方、関西勢では、立命館大学約60億円、関西大学約33億円、同志社大学と関西学院大学がいずれも約25億円、といったところです。
実は、令和2年度まで補助金交付先の上位には日本大学が名前を連ねていました。金額にして毎年90億円から100億円前後だったと記憶していますが、アメリカンフットボール部の悪質タックル事件や前理事長の脱税事件などの不祥事を受けて補助金の交付対象から外されていたのです。したがって、日本大学としては失地を回復して補助金の交付再開を実現することが喫緊の課題であり、アメフト部の大麻事件は何が何でも「なかったこと」にしたかったわけです。しかし、事を急ぐあまり事件を下手に隠蔽して、却って傷口を拡げたことはご承知の通りです。あの作家の理事長の辞書には「急いては事を仕損じる」という言葉はなかったのでしょうか。