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スタッフコラム
半世紀前の思い出-老化したニュータウンの再生~週刊ひかり vol.15
ある偶然が重なって小学校の卒業アルバムを紐解く機会がありました。アルバムは少し色褪せていましたが、表紙には「1969年」という文字がはっきりと刻まれています。今年は2019年ですから、ちょうど半世紀前の記録を手にしたというわけです。ページを開くと、そこには定番の集合写真とともに先生や級友たちの懐かしい顔ぶれが並んでいます。それらの写真は、側頭葉に眠っていた断片的な記憶を覚醒させ、当時の情景を脳裏に鮮やかに蘇らせてくれます。
そのようなことがあって、半世紀前の景色が現在どのように変化しているのかをこの目で確かめたくなり、先日足を運んできました。「足を運ぶって、地元じゃないの」と思われるかも知れませんが、当時在住していたのは大阪府吹田市でしたから、思い立って出かけたというわけです。わざわざ出かけなくてもグーグルのストリートビューで確認することもできますが、何ごとも自分の目で確かめなければ信じないという会計士としての職業的懐疑心が現地視察を後押ししました。現地は阪急千里線の南千里駅から程近い小学校ですが、当時「千里ニュータウン」として大規模な開発が行われた地域であり、街造りにあたって人工的に植栽された街路樹や園庭の樹木が大きく成長していることに驚かされました。当時は背丈ほどだった幼木たちが今や大樹に生長し、森のように繁茂している光景は、半世紀の時間を思い知るには十分でした。
しかし、それ以上に印象的だったのは、街が老化していることです。例えば、商業施設等を集約した「近隣センター」と称する区画には、小売店や書店もあれば、通っていたソロバン塾もあったはずですが、今はどこもシャッターが閉まったまま、人の行き交う姿もなく静かに佇んでいます。周辺の公団や府営の中層住宅の老朽化は目を覆うばかりですし、子供達の歓声に包まれていたプールがあった区画には老人福祉施設が開設されていました。半世紀の歳月は、街の主役を子供から老人へと交代させるのに十分な時間だったのです。
こうして「千里ニュータウン」は、日本最初のニュータウンとして注目された一方で、インフラの老朽化や少子高齢化といった今の日本が抱える難題にいち早く直面することになりました。これらの難題を解決するべく行政も街の再生に向けた様々な取り組みを重ねているようです。老朽化した団地の建替えをはじめ、瀟洒な分譲マンションの建設促進や公園活性化の一環として洒落たカフェを誘致するなどの対策が功を奏して街に若い住民が戻り始め、小学校の児童数もわずかながらも増加に転じているとのことです。ニュータウンが辿った半世紀は日本の歴史とも重なります。ニュータウンの再生スキームが奏功しつつある一方で、日本の難題解決の糸口はどこにあるのでしょうか。そんなことを考えながら、小学生の頃の遊び場だった公園にオープンしたカフェで暫し半世紀前の思い出に浸っていました。
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