2015年に発覚した東芝の粉飾決算事件では、インフラ工事やパソコン事業など幅広い分野で不正な会計処理が行われ、その総額は7年間で2,200億円に上ったといわれています。第三者委員会がまとめた報告書は「経営トップらを含めた組織的な関与があり、意図的に利益のかさ上げが行われていた」と指摘しています。つまり、歴代の社長たちが”チャレンジ”と称する過度な利益目標を掲げ、それに強いプレッシャーを感じた部下たちが不正な会計処理に手を染めたという古典的な粉飾決算事件でした。
この粉飾決算事件によって多額の損害を被ったとして、法人である東芝は歴代社長を含む旧経営陣5人に対して総額32億円余の賠償を求める一方、一部の株主も会社が訴えた5人以外の旧経営陣10人に対し、最大で33億円余を会社に賠償するよう求めていました。その結果、先月28日、東京地方裁判所は旧経営陣5人に対して「違法な会計処理を中止させたり是正させたりする義務を怠った」として総額で3億円余の賠償を命じる判決を言い渡したのです。
この3億円余という賠償金額も決して少ない金額ではありませんが、過去には巨額の賠償責任が認められた事件もありました。俗にオリンパス事件といわれる粉飾決算事件では、巨額の損失を10年以上にわたって隠し続け、M&Aによる買収会社の減損処理などを装って処理をした旧経営陣に対する株主代表訴訟で、元社長をはじめとする旧経営陣の賠償責任が認められ、総額で約594億円の支払いを命じた高裁判決が確定しています。
このように粉飾決算によって会社に損害を与えた場合、一個人では到底支払えない巨額の賠償責任を問われることを世の経営者諸兄は胸に刻んでおくべきです。さらに、粉飾決算が理由ではありませんが、福島第一原発の事故で多額の損害を被ったとして、東京電力の株主が旧経営陣5人に対し22兆円を会社に賠償するよう求めた裁判では、元会長ら4人に対して13兆円を超える賠償を命じる判決が下されています。もはや一個人ではどうすることもできない金額で「見せしめ」的な判決だとは思いますが、経営者諸兄に対する警鐘であることは理解しておかなければなりません。