知床遊覧船沈没事故から1年も経たない先週3月28日、京都の景勝地である保津峡の川下り和船が転覆するという事故が起きました。乗員乗客全員が春とはいえ冷たい急流の中に投げ出された状況は、川と海の違いこそあれ知床の事故と同様です。乗客に犠牲者が出なかったのは不幸中の幸いでしたが、事故の原因とその後の対応の状況が明らかになるにつれ、知床の事故の教訓は生かされていないように思います。
川下り和船に無線装置が搭載されていなかったことから事故発生の一報に多くの時間を費やしたことや救命胴衣の着用に関する注意喚起が不十分であったことなど、水難事故に対する事業者の危機管理意識が希薄であり、過去の事故を教訓としていないことは残念です。筆者もこの川下り和船に乗船したことがありますが、救命胴衣について説明を受けた記憶はありません。事業者の代表は「説明しているはず」と語っていますが、どうやら実態は違うようです。
ところで、この川下り和船を運航しているのは、「保津川遊船企業組合」という事業者です。一部の報道で「事故を起こした船を運航する”会社”」と解説していましたが、会社ではありません。企業組合とは、あまり聞き慣れない法人名ですが、中小企業等協同組合法を根拠として設立され、組合員の働く場の確保や小規模組合員の相互扶助等を目的としているものです。この点、営利を目的とする株式会社とは異なります。
中小企業庁のサイトでは、「個人が創業する際に、会社に比べ少額の資本で法人格及び有限責任を取得できるように考えられた、いわば簡易な会社ともいうべき組合」と説明されていますが、実態は組合員である個人事業者が各自の事業損益を持ち寄って合算し、それを組合の損益とする一方で各組合員は給与所得者となって課税上のメリットを得るという、小規模がゆえに個人と法人の良いとこ取りをしたような存在なのです。しかし、事故を起こした企業組合のサイトには「年間を通じて約30万の観光客が訪れ…」とありますから、乗船料一人4,500円を単純に乗ずると13億円を超える売上になります。その金額が小規模なのか、あるいは簡易な会社であってよいのか、違和感は拭えません。