「そこで、商売が成り立って、七分割をして、七分割というのは、貨物も入れて七分割して、これが黒字になるか。なるのは三つで、ほかのところはならないと当時からみんな言っていたんです。鉄道関係者なら例外なく思っていましたよ。分割も反対、みんな突っ込みでやるべきと。分割、分割と言った人は自民党の中にもいたし、野党にもいっぱいいたんですよ、あのころ。経営がわかっていない人がやるとこういうことになるんだなと思って、僕は当時力がなかったので、今だったら止められたかもしれぬなと。つくづくそう思って当時聞いていた記憶が私はあるんです。」
これは、2017(平成29)年2月8日の衆議院予算委員会における当時の麻生財務大臣の発言です。彼が「黒字になるのは三つ」と言っているのは、西日本と東日本、東海のいわゆる本州三社のことであり、他の北海道、四国、九州(これらを三島会社とも言います)と貨物は最初から赤字が想定されていました。ですから、彼が言う「鉄道関係者なら分割反対、みんな突っ込みでやるべき」との反対論も少なくなかったのです。もっとも、「経営がわかっていない人がやるとこういうことになるんだ」という発言については、彼が本当に経営のことを分かっていたのかどうか少々怪しいとは思っていますが(笑)
さて、前回「鉄道開業150周年に思うこと」をアップしたところ、面白かったというご意見に加えて「JRが分割された悲劇」の続きを知りたいという声も寄せられましたので、今回はその続編として、まずは麻生氏の国会における発言を引用することから始めた次第です。「僕は当時力がなかったので、今だったら止められたかもしれぬ」というくだりは、確かに彼は当時まだ駆け出しの議員で力がなかったことは事実ですが、駆け出しであろうが何であろうが信念に基づいて行動するのが議員の矜持であるとすれば、反対論に少しは勢いがついていたかもしれないと思うと少々残念な気はします。
それはさておき、本題の続きですが、「JRが分割された悲劇」は、JR7社間に資本関係が全くなく、また持株会社があるわけでもないので、経営がバラバラで統一性に欠け、あたかも会社毎の鎖国状態が生じていることがすべての元凶といえます。前回指摘した、境界駅や新幹線における二重設備、長距離列車の壊滅、ICカードの乱立に加えて、車両製造や運用の非効率化、周遊券などの割引乗車券の撤廃、それに観光キャンペーンの弱体化など枚挙に暇がありません。例えば、昔は東海道新幹線の各駅に九州や四国の観光ポスターが掲出されていましたが、いまは「そうだ京都、行こう」か「いざ飛騨へ」ぐらいしか見かけません。JR東海にとっては九州も四国も自社の利益には関係がないのですから当然といえば当然です。あるいは、過激な労働組合を抑えるには分割しかないとも喧伝されましたが、労働運動も当時の過激な思想は影を潜めましたから、杞憂であったといわざるをえません。それよりも鉄道のような巨大な装置産業ではスケールメリットにこそ着目すべきであり、国土を地域分割するのではなく、持株会社による事業毎の分社経営とした方がよほど効率的であったといえます。仮にJRホールディングスが存在していれば、私鉄や高速バスはもちろん、航空会社とも十分に渡り合えたはずだと悔やまれてなりません。
本文は以上ですが、おまけとして次の麻生節を紹介しておきます。彼のあのダミ声とべらんめえ調で音読してみてください(笑)
「JR九州の全売上高がJR東日本品川駅の一日の売上高と同じ。はい、知っていた人は。ほとんど知りませんよね。JR四国は幾らですかといったら、田町駅と同じなんですよ、売上高が。一日の売り上げだよ。それは勝負になりませんがな、そんなもの。だから、あとのところは大体、推して知るべし、もっと低いと思ってください。」