「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言があります。自らの経験だけで判断するのではなく、自らの経験を凌駕する先達たちの数多くの経験、つまり歴史を知ることで、より適切・的確な判断ができることを示唆する趣旨と理解していますが、この格言を待つまでもなく歴史を学ぶことは重要です。
例えば、税の歴史を紐解くと飛鳥時代(あるいは白鳳時代)の「租・庸・調」にその起源を求めることができます。貨幣経済が存在しない時代ですから、いずれも現物で納める税でしたが、米を納める「租」がすべての人に課された一方で、労役である「庸」と布や地方の特産物を納める「調」は男性にだけ課されていました。
ところで、当時の戸籍を調べると、女性ばかりの集落があったそうです。もちろん、それは事実ではなく偽った戸籍だったようですが、偽った動機は上記の「庸」と「調」の課税方式を知れば容易に理解できます。京都の町家の間口が狭い(いわゆる「うなぎの寝床」)のも間口の大きさに対して課税された「間口税」を回避する手段だったという有名な話と合わせて税の歴史のエピソードとして語られています。
このように、いつの時代にも課税があるところには必ずそれを回避する知恵が生まれ、それを封ずる対抗策が講ぜられると更なる知恵が絞られるといった、いわゆる「イタチごっこ」が繰り返されます。最近では節税型の生命保険をめぐる攻防が話題になっていますが、金融庁は去る7月14日に過度な節税商品の販売を推奨したとして某生命保険会社に業務改善命令を出しました。今後、国税庁と連携して対応を強化していくとのことですが、当局自らの経験だけで規制を強化する方向性には違和感を禁じ得ません。