過日、愛煙家の知人の耳元で「その煙のおかげで旧国鉄の債務が返済できている」と囁いたところ、彼は怪訝そうな顔をしました。そこで、たばこの価格には、たばこ税の他に国鉄清算事業団の債務を弁済するための「たばこ特別税」が含まれていることを説明すると、「たばこ税は知っていたが、そんな国鉄の借金まで返済しているとは知らなかった…」とうなだれ、肩を落としたのです。
そもそも、愛煙家が負担する税の割合は、消費税はもちろんとして国や市町村などに納めるたばこ税と上記のたばこ特別税とを合わせると6割を超えます。例えば、20本入り600円のたばこですと、そのうちの何と360円以上が税金というわけです。その事実を知るとアホらしくてたばこなど買う気にもなりませんが、税源としては貴重な存在なのです。つまり、「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」というのはタテマエで、ホンネは「もっと吸って税収に貢献し、早く死んで年金財政に負担をかけないように」と思っているのです。
ところで、今年のゴールデンウィークも好天を恨めしく見上げながら(笑)、拙著「マンガと図解-新・くらしの税金百科」の2022-2023年版の校閲で机に向かっていたのですが、相続税の配偶者控除に係るマンガのセリフのところで少し手が止まりました。
「ねぇ、相続税は配偶者に優しいって知ってた?」
「配偶者の相続する財産が1億6千万円以下なら相続税がかからないの…(以下、略)」
「どうしてだと思う?」
「夫婦の財産は2人で協力しあって築いたものだから…(以下、略)」
このセリフの展開に間違いはないのですが、相続税に配偶者控除が設けられた理由は実は違うところにあります。相続税法は、夫婦は同世代であって一方の配偶者に相続が発生すれば、他方の配偶者にも早晩相続が発生するので、控除した部分についても必ず課税の機会が訪れると考えています。つまり、遺された配偶者に優しい顔で微笑みながら、心の中では「次の機会は逃さないぞ」と狙いを定めているのです。ここにも税制のタテマエとホンネが見え隠れします。税を知るということは、こうしたホンネを知ることに他ならないのですが、税金百科の編集方針としてホンネをストレートに書くことは少し控えておこうというのが「ホンネ」です(笑)