去る4月19日、納税者と国が相続税の課税、正確には相続財産の評価をめぐって争った事件について最高裁判所の判断が出ました。下級審では、いずれも納税者が敗訴していましたが、上告にあたって最高裁判所が口頭弁論を開始したことから、判断が翻るのではないかと予想する向きもありました。しかし、結果は納税者の3連敗で幕を閉じました。この事件の概要は、相続開始直前に100の借入金で購入した時価100の不動産が相続財産となり、それを財産評価通達に従って評価したところ40であったため、この40の評価額と100の借入債務の差額60が他の財産と相殺された結果、本来納めるべき相続税がゼロになったというものです。そして、この不動産が相続開始後間もなく100で売却されたことから、相続財産の評価は100なのか、それとも40なのかが争われていたのです。
相続税の課税にあたって、その課税財産の評価は「財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による」とされています(相続税法22条)。そして、この時価については「それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、この通達の定めによって評価した価額による」として前述の財産評価通達が存在し、課税実務上はこの通達に基づく評価額が時価と「見なされて」います。そして、この見なされた時価は課税の安全性等に配慮して本来の時価の6~7割になることが一般的です。つまり、この事件もこうした実際の時価と通達による評価の乖差に着目して「節税」を図ったというわけです。
さて、こうした節税の是非について、最高裁判所は「本件購入・借入れが行われたことにより上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきである」と結論づけました。
実は、財産評価通達には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という項目があり、業界では「伝家の宝刀」ともいわれています。この事件では、90歳を超えた被相続人による多額の借財と不動産購入であったこと、購入した不動産の特殊性から評価額は時価の4割程度に留まったこと、この不動産が相続開始後間もなく売却されていたことなどから、国税当局には「過度な節税」と写り、この伝家の宝刀が抜かれたという理解です。そして、この事件の背後には「過度な節税」を指南した税理士の存在が強く推認されますから、伝家の宝刀を抜かせた税理士の人物像にも興味が募るところですが、その税理士に一言声を掛けるとすれば、「過ぎたるは及ばざるが如し」ですね。