去る4月11日、JR西日本が地方路線の収支を公表しました。公表対象は路線1キロメートル当たりの1日平均利用者数(輸送密度)が2,000人未満の17路線30区間で、この区間の2017~19年度の年間平均の営業赤字は約248億円に達したとのことです。中でも輸送密度が最も少ない芸備線の東城-備後落合間は11人/日で、営業係数は26,906、つまり100円稼ぐのに2万6千円のコストがかかっているというわけです。
この他にも、木次線の出雲横田-備後落合間が8,119 円、芸備線の備後落合-備後庄原間が5,260円の営業係数であることが公表されています。このワースト3のいずれにも登場する備後落合駅は中国山地の奥深く、鳥取、島根両県境に程近い広島県庄原市に所在する山間の小駅です。春は小鳥のさえずりが耳に心地良く、秋は紅葉に彩られる都会の喧噪とは無縁の小駅ですが、2022年3月発行の時刻表によると1日3往復の列車しか運転されていません。
50年前の1972年3月発行の時刻表を繙くと(そんな古い時刻表をなぜ持っているのかはさておき…(笑))、広島と松江を結ぶ陰陽連絡急行列車が3往復設定されており(うち1往復はなんと夜行列車!)、発着する列車も一日10本を超えていますから、その凋落には目を覆うばかりです。人口減少はもちろん、道路網の整備に伴う自動車利用の浸透が原因であることは言うまでもありません。陰陽連絡に関しても、広島と松江を結ぶ高速バスが1日10往復ほど運行されているのですから、もはや鉄道に出る幕はなさそうです。
均衡ある国土の発展という観点からは、都市部での稼ぎを地方に還元することも鉄道会社の使命ですが、一方で株式会社化した旅客鉄道会社にとっては利益の確保も必要ですから赤字路線の運営から撤退するという選択肢があることも事実です。このジレンマがJR各社にとっての大きな悩みの種なのですが、リニアや新幹線の建設に膨大な投資をするのであれば、こうした地方路線の維持や活性化についても知恵を絞って真剣に考える必要があるというのが持論です。錆び付いたレールや外されたレールが元に戻ることは決してないのですから…