先週3月1日、第208回国会に「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案」が提出されました。「会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入、監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限の見直し、公認会計士の資格要件の見直し等の措置を講ずる必要がある」というのが改正の理由とされています。
この改正は、去る1月4日に金融庁から公表された「金融審議会公認会計士制度部会報告」がベースになっていますが、その目玉は上場会社監査に関する登録制度を法制化したことにあります。従来、この制度は監査の品質管理の充実強化を通じて財務諸表監査の信頼性を確保するために日本公認会計士協会が会則によって導入し運用していた自主規制だったのですが、これを法律化することによって公認会計士や監査法人に対する監督機能(権限)を強化しようというわけです。
この他にも、公認会計士への登録拒否要件の厳格化や監査法人に対する業務管理体制の整備要求、さらには資格要件である業務補助期間の1年延長なども改正項目となっていて、要は「規制の強化」が図られています。前出の金融審議会公認会計士制度部会の議事録に目を通しますと、「(監査法人が)いかなる規模であったとしても、高品質で信頼の得られる監査を行うに至る体制などをしっかりと確保していくことが求められる」とか、「監査品質の向上を十分に図るために(監査法人は)自律的に質を高めていくことが必要」といった文言が溢れ、それらが「報告」にまとめられて改正法案に反映されていることが分かります。
つまり、上場会社の相次ぐ粉飾決算事件を受けて、その再発防止策として公認会計士や監査法人に対する規制を強化しようという文脈で改正法が起案されているわけですが、果たしてそれで問題が解決するのでしょうか。上場会社の情報開示の信頼性は、当事者である会社の姿勢は言うまでもなく、市場運営者や市場に関わる金融機関、そして公認会計士や監査法人に対する規制がバランスよく実施されて初めて担保できるはずです。それにもかかわらず、粉飾決算が露見するたびに公認会計士や監査法人に対する規制だけが強化されるという偏った対応策には違和感を禁じ得ません。