大学では金融論のゼミに所属していました。ゼミ生は都市銀行をはじめ大手の証券や生損保会社に就職することを目標に勉強していましたから、その中で会計士を目指すなど文字通り異端児でした。ゼミの指導教授は既に鬼籍に入られましたが、そんな異端児にも温かく接していただいたことに改めて感謝しています。そのゼミ生時代の思い出の一コマに手形交換所の見学という学外視察があります。
手形交換所は、同一地域内の金融機関が持ち寄った手形や小切手を交換決済する施設で、京都市内では日本銀行京都支店東隣の京都銀行協会内に設置されています。思い出の一コマは今から45年以上も前のことですから、都市銀行だけでも13行、地方銀行に相互銀行、それに信金や信組などを合わせると優に30を超える金融機関から持ち込まれた膨大な枚数の手形や小切手が手際よく仕分けられ交換決済されていく様子に教科書では知り得ない「実務」を垣間見た印象が強く残っています。
さて、そのような手形交換所がいよいよ廃止されようとしています。先日の報道によりますと、「政府は全国銀行協会など金融業界に対し、手形交換所での約束手形の取り扱い廃止を検討するよう要請する」とのことです。確かに、2021年の手形交換高は約122兆円で20年前の約1,052兆円から約9割も減少しているというデータからも、廃止はやむを得ない時代の流れということもできます。
加えて、政府は「紙の約束手形の利用を2026年に廃止する目標の実現に向けて一歩踏み込む」という方針を打ち出しています。その理由として「現金化まで時間がかかり、中小企業の資金繰りを圧迫しがちな商慣行の改善をめざす」というわけですが、手形の利用が激減した理由の一つに印紙税が影響していることも見逃せません。手形の現物管理や期日管理に係るコストもさることながら、実は手形利用に伴う無駄な印紙税を節約することが手形減少の一番の理由ではないかと思っています。