少子高齢化が加速する中、経営者の高齢化も決して例外ではありません。わが国の経営者の平均年齢が65歳を超えるというデータが示すとおり、高齢化した経営者にとって喫緊の課題が事業承継であることはいうまでもありません。その解決策の一つとしてM&Aが注目されていることはご承知の通りです。
今さらですが、M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略です。翻訳すれば「合併と買収」ということですが、事業承継の出口戦略としては合併より買収事案の方が圧倒的に多数を占めています。つまり、経営者にとって後継者に恵まれない場合の事業承継策として、会社そのものを売却し、その後の経営を他人に委ねるという苦渋の選択をすることです。したがって、買収という表現も買い手目線であり、売り手の心情が反映されたものとは言えません。
そもそも、誰が好き好んで手塩にかけて育てた会社を売るでしょうか。本来であれば、血縁の有無はともかく自らが選んだ後継者に後事を託するのがベストのはずです。それがたまたま首尾良く行かなかったからといって、耳元で「あなたの会社、売りませんか」と呟くのは、ひょっとすると悪魔の囁きではないかと思っています。
悪魔の囁きかどうかはここでは措くとして、このM&A仲介業を営む上場会社の不祥事が先日明らかになりました。上層部からM&Aの成約件数とそれに伴う手数料収入(つまり、彼らの売上)のノルマが厳しく課せられる中、未契約事案を成約したと仮装して売上を架空計上していたというのです。上場会社の架空売上など珍しくもなく別に驚きもしませんが、中身がこと M&Aに係るものとなると、心ならずも会社を手放さざるを得なかった経営者の胸中に思いを馳せるとき、「君たちのノルマ達成のためにM&Aがあるのではない」と心中穏やかではいられません。