前回、粉飾決算に手を染める上場会社の経営者達の動機が理解できないという話をしましたが、動機が理解できないという意味では、同業者つまり税理士に対する懲戒処分の理由を知ると、これもまた理解に苦しむ他はありません。
過日、国税庁がホームページ上で公表した税理士の懲戒処分事案の中に某税理士の名前がありました。処分の内容は、令和4年1月6日から10ヶ月間の税理士業務停止であり、処分理由は「信用失墜行為(自己脱税)」とされています。具体的には、「被処分者は、自己の所得税の確定申告に当たり、福利厚生費や旅費交通費等を水増しして経費に計上すること等によって、不正に所得金額を圧縮して申告した」と説明されています。
税理士法第37条は「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない」と定めていますが、税理士自らが脱税することは当然のことながら「信用又は品位を害するような行為」に該当することはいうまでもありません。あるいは、税理士資格を持たない者が作成した申告書に署名押印する、いわゆる「名義貸し」行為も同様に信用失墜行為とされています。
自己脱税にせよ、名義貸し行為にせよ、それに手を染める動機として、「脱税による手元資金の留保」や「名義貸し行為による対価としての経済的利益の収受」などと説明することは容易です。しかし、それらも表沙汰にならないという前提があってはじめて成就するに過ぎません。その前提が崩れて処分されるに至っては、すべてを失うわけですからリスクは大きすぎます。資格取得にあたっては人並み以上の努力をしたでしょうし、事務所の経営も波静かな時ばかりではなかったと推測します。それらの苦労が報われるどころか一瞬にして徒労に終わるとすれば、そのようなリスクを冒してまで実行する動機はやはり理解不能と言わざるをえません。