動機が理解できない事件が少なくありません。医師を巻き込んだ放火自殺や猟銃による医師殺害事件などもその一つですが、上場会社による粉飾事件が後を絶たないことについても、その動機が理解できません。昨年末から今年にかけて、アウトソーシング社やエデュラボ社、そして上場廃止が決まったグレイステクノロジー社など、いずれも東証1部上場会社による粉飾決算が相次いでいることに憤りを覚えると同時に、その動機を理解できずにいます。
他人を道連れにする自殺事件などは事前の抑止力が働かないという意味では、被害者にとっては突然の厄災以外の何者でもありませんが、上場会社の粉飾決算については、監査役監査や会計監査人監査といった制度としての抑止力が備わっており、被害者を生まない仕組みになっているはずです。にもかかわらず、それが機能しなかったことについては今後検証されなければなりませんが、粉飾決算を看過した監査役や監査法人に対して厳しい視線が注がれることは避けられないでしょう。
ところで、上場廃止となるグレイステクノロジー社が公表した粉飾決算に係る特別調査委員会の「調査報告書」に目を通しますと、俄には信じられない記載に目を疑います。「俺はクレームなんて全然怖くもなんともねーんだよ。ビビらせんだよ。クレームもらおうが何しようが、食いちらかそうが何しようが、まず売れ。金の回収で難ありだったら俺が出るから。回収すればそれで OK。もうなりふり構わず売るしかない。今うちの会社に必要なのはそこだ。」これが上場会社の取締役会における代表取締役の発言というのですから、驚くほかはありません。
下劣な罵声は虚しく空を切り、結局数字が達成できないとなると、待っているのは売上を仮装するという粉飾行為です。報告書は 「成長企業としての虚栄を維持するために、機関投資家に会社の成長性を騙り、過大な目標にコミットし、部下に対して罵倒、恫喝、人格否定も厭わずにプレッシャーをかけ、それが営業部による売上の前倒しや架空売上を招くことになった」と粉飾に至る経緯を一応は分析しています。しかし、粉飾が破綻するのは時間の問題であることは過去の多くの同種事件が証明していますから、事情はどうあれ、粉飾に手を染める真の動機を理解することができません。「先を見通せない、その場しのぎの対応」だとしたら、それはもはや経営でも何でもないのですが。