税理士法人から独立する際に顧客企業の情報を不正に持ち出したとして、京都府警生活保安課と中京署は19日、不正競争防止法違反(営業秘密領得)とマイナンバー法違反(不正取得)の疑いで、京都府長岡京市の税理士の男(39)と京都市下京区のアルバイトの女(33)を逮捕した。2人の逮捕容疑は共謀して2020年6月下旬、当時勤務していた中京区の税理士法人で、取引先の企業2社の財務情報や社員の給与、マイナンバーなどの個人情報をハードディスクに複製して持ち出した疑い。2人は容疑を認めている。
先週、上記のようなニュースが流れてきて驚きました。中京区の税理士法人、それも一部の報道では全国に拠点を持つ税理士法人とされていたことから、弊社が当事者ではないかとのご懸念を持たれていないかと案じました。その後の実名報道で逮捕された2人の氏名と2人が勤務していた税理士法人の名称が明らかにされたので事なきを得ましたが、匿名報道に接したときには「こりゃ、下手をすると誤解されかねないな…」と心配したのが正直なところです。
それはともかく、自らが独立開業するにあたって古巣の勤務先から顧客データを窃取するという行為が許されないことは言うまでもありません。今回、2人が逮捕されるに至った詳しい事情について知り得る立場にはありませんが、退職職員による顧客の奪取や顧客情報の窃取をめぐるトラブルは今に始まったことではなく、損害賠償事件として民事訴訟になっている事例は枚挙に暇がないのが実情です。専門士業といえども顧客獲得が容易でない中、退職職員に対する「のれん分け」など既に死語になっている昨今、こうしたトラブルは後を絶たないようです。
逮捕された税理士のホームページを見ると(逮捕後も閉鎖されていないのが不思議ですが…)、事務所のスローガンとして「挑戦の先に成長あり-提案の出来ない税理士が必要とされない未来がくる」という、やや挑発的なメッセージが掲げられています。挑戦するのは結構ですが、窃取した情報を悪用したアクションを挑戦とはいいませんし、自らの創意のない窃取したアイデアは提案などではありません。一方、情報を窃取された税理士法人側の情報管理の甘さも批判されるべきでしょう。顧客情報には高度の守秘義務が課せられていることから、退職職員のアクセス権限を制限するなどのリスク対応が十分であったのかどうか検証が必要といえます。弊社としても、この事件を他山の石としなければならないと思っています。