先週に引き続いて来年度税制改正大綱の話題になりますが、新聞等を見ていますと、大綱で贈与税の基礎控除額の見直しについて言及されていなかったことが意外だという趣旨の記事が散見されます。改正の目玉がなかったという記事も、これと類似の趣旨かもしれません。
大綱では「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」と述べられているのの、確かに具体的な内容については触れられていませんでした。ただ、「暦年課税制度を見直す」という書きぶりから、巷間では110万円の基礎控除が縮減もしくは廃止されるのではないかとも噂されています。
しかし、贈与税の基礎控除額が現在の110万円に引き上げられた際に、その理由として次のように説明されていたことは記憶に新しいはずです。つまり、「贈与税の基礎控除については、昭和50年以来据え置かれていること、若年・中年世代への早期の財産移転の促進を通じて経済社会の活性化に資すると考えられることから、当面の措置として引き上げてもよいのではないか」(税制調査会「平成13年度の税制改正に関する答申」平成12年12月13日)。既に20年ほど前の話ですから、「あれから時代は変わった」と言われればそれまでですが、本当に時代は変わったのでしょうか。
そもそも贈与税に基礎控除額が設けられているのは、少額不追求という考え方も背景にあります。仮に1万円のプレゼントにも贈与税が課税されるとして、それが適正に申告されるでしょうか。あるいは、無申告であることを調査する術はあるでしょうか。いずれも否定的な答えを用意するほかはありません。つまり、格差の固定化防止や資産移転時期の中立性といった政策目的は別の次元で考えることであって、少なくとも基礎控除額の縮減や廃止で実現できるものではないはずです。