前回のコラムで触れた所得税の負担率に係る「1億円の壁」のほかに、年収増加に伴う満足度にも「1億円の壁」が存在するという興味ある調査結果があります。内閣府による「満足度・生活の質に関する調査に関する第4次報告書」によると、年収増加に伴う満足度の上昇は5,000万円で頭打ちとなり、1億円以上の高額所得層では逆に満足度が低下する傾向があるというのです。
また、保有する資産の額と幸福度の関係をアンケート調査した某大学研究所の論文によると、資産額が2,000 万円までは資産額が増えると幸福度が上昇するという正比例の関係が見られるものの、それ以上の資産の増加は幸福度にほとんど影響を与えないというのです。つまり、資産についてはかなり低い額で幸福感の飽和が見られるというわけです。
確かに、年収や保有資産は多いに越したことはないわけですが、10万円に対するプラス1万円と100万円に対するプラス1万円との効用を比べた場合、いわゆる限界効用逓減の法則によって前者の効用の方が大きいことは明らかですから、一定額以上の年収や保有資産に対する限界効用が低下するという結論には頷けます。
もっとも、満足度であれ幸福度であれ、年収や保有資産といった経済的な価値だけで計れるものではありません。人間関係も然りですし、とりわけ健康であることなどは大きな要素だと思います。一方で、定量化された「幸福」の姿とは「ある程度の学歴を得て安定的な職に就き、そこそこの所得と資産を得て、他を羨まず、質素にならない程度に消費して、刹那的にならず、それなりのリスクを取って生きる」ことだいう説がありますが、当たらずとも遠からずというところでしょうか。