先週のコラムで紹介した矢野財務事務次官の月刊誌投稿文が波紋を呼んでいます。総選挙を控えた今の時期に投稿されたことに様々な憶測が流れる中、内容そのものについての賛否も各方面から寄せられているようです。定額給付の実施や消費税の減税といった財源を無視した選挙公約を掲げている各政党も矢野投稿文の火消しに躍起と言ったところでしょうか。
火消しとしての反論の中で気になるのが、いくら財政赤字が拡大しても「自国通貨建ての国債である限りデフォルトは起こらない」という意見です。これは、MMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)として流布されている異端の経済学の考え方に由来するもので、「自国通貨建てで国債を発行している限り、自国通貨を追加発行すれば国債の償還は可能であり債務不履行はあり得ない」という主張の請け売りです。
確かに、わが国の場合でも自国通貨である日銀券を印刷機でひたすら刷りまくれば国債の償還は可能でしょう。しかし、その結果、インフレが進行して経済が破綻することなど、経済学を少し知っていれば誰にでも分かる話です。MMTもそのことは理解していて、前述の主張も「インフレにならない限り」という前置きをしています。しかし、インフレをコントロールする手法については何も述べていません。
このような異端の経済学が流布され、それを支持する人達がいることが不思議ですが、彼らは異口同音に「財政規律を主張することは馬鹿げている」と言います。青天井で債務を増やして財源無視の政策を実行すれば現在の国民は幸福になれるのかもしれませんが、未来の国民も同様に幸福になれるのでしょうか。もし本当にそうであれば反対はしませんが、誰も検証することのできない絵空事で政治や経済を語る人達に強い違和感を禁じ得ません。