先週発売された文藝春秋の11月号に財務省の矢野事務次官が、「財務次官、モノ申す-このままでは国家財政は破綻する」というタイトルで寄稿しています。矢野氏は冒頭で「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、もう黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえある」と述べ、「諸々のバラマキ政策がいかに問題をはらんでいるか、そのことを一番わかっている財務省の人間が黙っていてはいけない」と熱い思いを綴っています。
矢野氏が言うバラマキ政策とは、昨年実施されたコロナ対策特別定額給付金のことですが、それに留まらず2009年の定額給付金や古くは1999年の地域振興券などのことも含めての話しだと理解しています。このような繰り返されるバラマキが政策的に奏功したとは全く思えないところ、矢野氏が「定額給付金をばらまいても死蔵されるだけで、経済対策にはならない」と看破していることに強く賛同します。
とはいえ、公文書改ざん事件を起こした財務省の事務方トップが言うことですから、素直には受け取れないのも事実です。しかし、そのことは矢野氏も心得ていて、「どの口が言うのか」との批判は覚悟の上で、「勇気をもって意見具申せねばならない。それを怠り、ためらうのは保身であり、私心が公を思う心に優ってしまっているからだ」と続けます。そして、「心あるモノ言う犬の一人として、日本の財政に関する大きな懸念について私の率直な意見を述べた」と結んでいます。
早速、これに反応した与党の政調会長は、「財政収支にこだわって未来を担う子供たちに投資しないというバカげた話はない」などと反論したそうですが、だったら、「未来を担う子供たちに負の遺産を残しても良いのか」と再反論せざるを得ません。未来を担う子供達が間違いなく返済をしなければならない借金をしてまで国民は「カネを寄こせ」などと本当に思っているのでしょうか。矢野氏が言うとおり、「みんながバラマキに拍手喝采などしていない」のです。