大学で監査について講義をする際に、「諸君が学ぶ大学も会計監査を受けている」と話すと、「へぇ~」という空気が伝わってきます。さらに、「では、なぜ監査を受けなければならないのだろうか」と問うと、受講生は一様に「う~ん」といった顔をします。答えは、私立学校振興助成法に「貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類については、公認会計士又は監査法人の監査報告書を添付しなければならない(14条3項)」とされているからです。同法は、国や地方公共団体が行う私立学校に対する助成について定めたもので、要は補助金を受け取った以上は、その使途が法律の趣旨に沿っているかどうかについて第三者のチェックを受けなさいという趣旨です。
監査論の講義としてはそれで十分なのですが、少し脱線して「ところで、諸君が学ぶ大学が国庫から受けている補助金の額を知っているか」と聞くと、ほぼ誰も知りません。監査について学ぶ学生といえども、さすがそこまでは興味や関心はないようですが、「そういうことも含めて考えるのが監査を学ぶことに他ならない」と、したり顔で論じているわけです。で、これも答えを言いますと、立命館大学の令和2年度補助金交付額は約60億円です。この金額は全国の大学法人の中でも第4位の水準にあり、同志社大学の約26億円や京都産業大学の約15億円に比べても大きな金額となっています。
ところで、補助金交付額を上位から見ていきますと、早稲田92億、日大90億、慶応82億、立命60億、昭和59億、東海59億、順天堂56億、近畿47億、北里40億、帝京34億といった具合です。ここで何か気付かれることはありませんか。そうです、これら上位校のうち、早稲田と立命以外は医学部が設置されているのです。つまり、医学教育に対して補助金が傾斜配分されていることは明らかなのです。その意味では、私大医学部の学費が高額であることは知られていますが、それに加えて国庫の補助も手厚く行われていることを納税者としては知っておくべきです。
それはともかく、前出の日本大学は90億円もの国庫補助を交付されながら、医学部付属病院の建て替えに関して大学関係者に不透明な資金が流出した疑いがあるとして東京地検特捜部が捜査に着手しました。同大学のホームページには「事実関係を把握していないことから、コメントは差し控えさせていただきますが、今後、東京地検の捜査に全面的に協力してまいります」との短い一文が掲載されているだけですが、事件は私たちが納めた税金の使途にも関わることですから、今後の推移には注目しておかなければなりません。