コロナ禍による緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置といった人流を抑制する施策が展開される中、鉄道各社の苦境が続いていますが、先日、各社から提出された2022年3月期第1四半期報告書によりますと、京阪ホールディングスが7億円の黒字(前年同期は34億円の赤字)、阪急阪神ホールディングスも32億円の黒字(前年同期は189億円の赤字)となっています。
これは、兼営する不動産業や流通業が鉄道事業利益の落ち込みを支える形で業績回復に繋がった結果ですが、一方で鉄道事業のウェイトが高いJR各社では依然として厳しい状況が続いています。例えば、JR西日本が320億円の赤字(前年同期は767億円の赤字)、JR東海も284億円の赤字(前年同期は726億円の赤字)と報告されています。
こうした状況下で公営交通も例外ではなく、京都市交通局では21年度予算で市バス60億円、地下鉄82億円の減収を見込み、両事業ともに50億円を超える赤字予算となっています。そして、市民向けの広報誌では「テレワークなど新たな生活様式の定着や観光利用の動向を踏まえるとコロナ以前の状況に戻るかは不透明」として「このままでは市バス・地下鉄の経営が立ち行かなくなる」と泣きを入れています。
実は、その泣きは「運賃値上げ」の布石に他ならないのですが、すでに全国で一番高い運賃を更に値上げするというのですから驚きです。傍から見ても経費削減の余地がまだまだある中で、安易な値上げを考えている人たちには是非とも経済学の基礎を学んでほしいものです。例えば、「需要の価格弾力性」は商品やサービスの価格が変動した際に需要がどの程度変化するかを考える指標ですが、運賃引き上げが需要喪失つまり客離れに繋がり、結果として増収効果は期待できない可能性が高いと言わざるを得ません。複数人で乗ればタクシー料金の方が利口であったり、クルマで移動して駐車料金を払った方が割安で便利だとなったら、誰もバスや地下鉄には乗りませんから。
【補遺】
京都市が条例に基づいて設置した「市バス・地下鉄事業経営ビジョン検討委員会」の議事録に目を通しますと、「運賃改定も経営改善に向けた手段の一つとして検討すべきであり、効果的な手法であることを提案したい」とか「少ないお客様で収入を確保するには,運賃単価を上げることを考えた方が良い」、「今の料金を値上げすべきではないという意見は出なかった」などといった意見が述べられています。まさに、提灯持ちの御用委員会そのものであることに改めて驚かされます。