法律についての学習は、まず教科書で学ぶことから始まります。しかし、文字列である条文から、その趣旨や意図するところを理解するのはなかなか難しく、いわゆるコンメンタール(逐条解説)にお世話になることになります。この点、会社法や民法といった実務と直結する法律では、目の前の出来事から「なるほど、そういうことだったのか」と学ぶことも少なくありません。つまり、実体験こそが最善の教師ともいえるのです。
例えば、会社法316条1項では、「株主総会においては、その決議によって、取締役(中略)が当該株主総会に提出し、又は提供した資料を調査する者を選任することができる」とされていますが、ここでいう提供した資料が何で、調査する者は誰なのかについてピンと来る人は少ないと思います。それは、多くの人が平和な株主総会の経験しかなく、この条文が発動される事態に遭遇したことがないからに他なりません。
しかし、非常事態が生じた場合は話が別です。東芝が去る6月10日に公表した報告書によると、昨年7月に開催された定時株主総会が公正に運営されたかどうかについて、筆頭株主から会社に対して第三者委員会による調査の要請があったものの、会社側がこれを無視したことから、会社法316条による調査の要否をめぐって臨時株主総会が招集されることになりました。会社は、この臨時総会でも「調査の必要はない」と株主提案に反対しましたが、株主の賛成多数により調査者が選任され、総会運営の公正性について調査されることになったというわけです。
結果は予想通り会社に対して厳しい指摘になっています。当時の社長に対しては「関わっていないとは到底言えない」とか「供述は信用できない」などとその姿勢を糾弾し、また、当時の経産省情報産業課長が自らの所掌事務の範囲を逸脱して、株主提案を取り下げさせようと画策していた事実も明らかにされています。調査報告書は、「総会は公正に運営されていなかった」と結論づける一方、「東芝は委員会設置会社であって、コーポレートガバナンスのもっとも進んだ会社であると外からは見えるが、社外取締役の認識ないし意識にこのような傾向(筆者注:物言う株主や行政との関係に対する不作為)が強すぎるようであっては、折角の立派な器も十分に機能することは難しい」と付言しています。委員会設置会社のあり方について一石を投じたものとして重く受け止めるべきだと思うのは筆者だけではありますまい。