JTBは、かつては日本交通公社と称していました。その名前から当時の日本電信電話公社(現在のNTT)や日本専売公社(現在のJT)などと同じ公共企業体と誤解していた人も少なくなかったのですが、当初から純粋な民間企業です。2001年に名称を現在の株式会社ジェイティービーに変更して「公社」が外れてからは違和感もなくなりました。売上高1兆円を超える旅行業界の最大手であることは、みなさんご承知の通りです。
そのJTBが先週5月28日に発表した「2021年3月期決算概要」によりますと、連結ベースの売上高は対前年比71%減の3,721億円、赤字は1,051億円という大変厳しい数字になっています。営業キャッシュフローはかろうじてプラスになっていますが、863億円というプラスの財務キャッシュフローが苦しい台所事情を物語っています。報道によると、店舗の統廃合や人員削減など業績回復に向けての茨の道が続くようです。
それはさておき、同社の貸借対照表に目を転じると「おや?」と思うところがあります。資本金が前年の23億円から1億円に減少し、その分資本剰余金が22億円計上されているのです。つまり、かつて1兆円を超え、コロナ禍で7割減になったとはいえ業界最大手の有名企業が減資によって資本金1億円の中小企業になったというわけです。
資本金が1億円を超えるかどうかは法人税法上の中小企業に該当するかどうかのメルクマールですから、あえて1億円にすることで中小企業としての税制優遇措置を受ける判断をしたものと推測します。業界最大手が中小企業の扱いを受けることに異論もあるようですが、コロナ禍で傷んだ企業にとってコスト削減に聖域はありませんから、税というコストも圧縮すべきことは当然です。そう思いつつ調べを進めていくと、中堅航空のスカイマークや全国紙の毎日新聞社が資本金を1億円に減資していました。また、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトなどの外食産業でも資本金を1億円に減資する動きが加速しているようです。