物事は遅いより早いに越したことはありません。仕事はもちろん、意思決定についても優柔不断であるより積極果断である方が望ましいでしょう。課題を先送りにしたために状況がさらに悪化したという事例など枚挙に暇がありません。移動時間にしても、遅いより早いことを望む人は少なくありません。新幹線や高速道路網が発達したのも、そのためといえます。
固定資産の取得原価を費用配分する方法としての減価償却にしても、できるだけ前倒しで早期償却する方法、例えば定率法が財務の健全性を担保する上でも望ましいことは言うまでもありません。法人税法が一部の固定資産について定率法の適用を否定して定額法を強制しているのは、償却費の計上を先送りさせて当面の税収を確保しようとするご都合主義に他なりませんから、会計的には眉を顰めざるをえません。
ところで、前回のコラムで話題にした国外逃亡犯のカルロス・ゴーンですが、彼を瀕死の日産を復活させた救世主のようにもてはやしたのは当時のマスコミでした。「奇跡のV字回復」などといったフレーズが新聞や雑誌に踊っていましたが、彼がしたことは不採算工場の閉鎖と人員整理に加えて生産設備の減価償却方法を定率法から定額法に変更しただけです。つまり、自動車メーカーが負担する膨大な減価償却費の計上を先送りすることによって見せかけの利益を捻出して復活を装っただけなのです。マスコミが賞賛するような神業でも何でもなかったことは会計の知識のある者にとっては自明の理でした。
それはそうとして、費用計上を先送りしたところで、何処かで帳尻は合わせなければなりませんから、やはり物事は遅いより早い方が良いに決まっています。その意味では先日来、世間を賑わせていた某組織のトップの辞任劇には失笑を禁じ得ません。どうせ辞めるのなら早い方が良かった。ズルズルと引き延ばして事態はさらに悪化したというティピカルな事例をまた一つ増やしたというわけです。残念ながら当該組織が主導するイベントの開催可能性は低いと思っていますから、後任人事に興味などありませんが…(笑)