粉飾決算は止めておいた方が良いと思うのですが、一向になくなる気配がありません。あるいは、監査が必要とされていない中小零細企業においては、違法という意識が希薄な中で漫然と粉飾決算が行われているようにも思います。誤解を恐れずに言えば、数字をマイナスに脚色する逆粉飾も含めて多くの会社で何らかの「お化粧」が行われているのが実態なのです。
会社法976条では、計算書類に必要な記載をしなかったり虚偽の記載をした役員に対して100万円以下の過料を科すとしていますし、会社法960条の「役員等の特別背任罪」に問われると、10年以下の懲役と一千万円以下の罰金が併科されます。また、金融商品取引法に抵触すると、やはり10年以下の懲役と一千万円以下の罰金が併科されるとともに、会社にも7億円以下の罰金刑が科されます。さらに粉飾決算による違法配当については、会社法462条に定める責任を追及されることになります。このように粉飾決算の代償は決して小さくないのです。
さて、昨年秋と年末に最高裁が相次いで粉飾決算に関する判断を下しました。秋の判決では、当時の社長、副社長、監査役の3名に対して総額594億円の賠償を命じる高裁判決に対する上告が棄却され、賠償命令が確定しました。一個人が594億円という巨額の損害賠償金を支払えるとは思えませんから、この判決が「見せしめ」であることは明らかです。一方、会社が上場前から粉飾決算をしていたにもかかわらず、それを看過して上場させた証券会社の損害賠償責任を容認しなかった高裁判決を破棄して差し戻したというのが年末の判決です。
これらの判決から粉飾決算に手を染めた役員や関係者に対する裁判所の姿勢が厳しいことが読み取れますが、それにもかかわらず粉飾決算が後を絶たないことは理解に苦しみます。埼玉県上尾市に本社のある東証1部上場会社は、2016年の新規上場前から不正な会計処理があったことを自ら発表しましたが、粉飾決算で損害を被ったとする株主から提訴されたとのことです。上場会社での粉飾決算の発覚ですから、当然に監査法人も責任追及の矢面に立たされることになります。他人事とはいえ、同業者として他山の石としなければならない事件のようです。