「海を恐れず、しかし侮らず、謙虚な気持ちで無理をしない」これは、船長心得の基本であり、小型船舶操縦士試験においても必ず出題されるキーワードです。前回、四輪免許のことに触れたので、今回は船舶免許の話をしますが、読者のみなさんは、「えっ、そんな免許も持っているのですか」と思われるかもしれませんね(笑)
確かに、わが国のクルマの運転免許保有者が8千万人を超える中で、小型船舶操縦士免許の保有者は3百万人強ですから、クルマの免許に比べれば圧倒的に少数派ということになります。ましてや、1級免許といって沖合80海里(沿岸から約150キロの水域)まで航行できる資格の保有者は80万人ほどですから、かなりレアな免許を持っているという訳です。
それはともかく、冒頭の船長心得は、船を操る上での最も重要な戒めであることは言うまでもありません。なにしろ、船は不安定な水面に浮いており、絶えず外力を受けて浮動していますから、操船を適切に行わなければ安全が確保できません。そもそも、クルマのように走る「道」がないのです。航路といわれる航行可能域はありますが、もちろん白線が引いてあるはずなどありません。あるいは、その「道」自身が波やうねりで動くのですから、なかなかやっかいです。
そんなやっかいな船の操縦ですが、好天下の水面を波を切って滑走するときの爽快感は何物にも代えがたいものがあります。しかし、周りは危険だらけです。接近する他の船舶はないか、海面に浮遊物はないか、水面下に暗礁はないかなど常に見張りを怠ることはできません。そうした危険が360度四方に存在していることを理解した上で、それを事前に回避することこそが船長の責任なのです。これは、現下のコロナ禍への対応にも当てはまります。国の船長たる者が危険を直視せずに「小出し、後出し、ダメ出し」の政策を繰り返す姿に「コロナを恐れず、しかし侮らず、謙虚な気持ちで無理をしない」対応が必要であることを伝えたいのは筆者だけではないと思うのですが…