京都市内から路面電車(市電)が消えて久しく、人々の記憶からも遠ざかりつつあります。最期まで残っていた東大路から北大路を経て西大路、九条通を周回する循環線の営業を終えたのが1978年10月でしたから、丸42年が経ちました。時間が経つのは早いものですが、当時の市電車両が今も現役で活躍しているというと、みなさん少し驚かれるかもしれません。いわゆる保存車両のイベント走行などではなく、営業路線で日夜乗客を乗せて走っているのです。
その場所は、広島市内。広島の路面電車として、京都市内を走っていた当時と変わらぬ姿で元気に営業運行する様子には、懐かしさと同時に京都で走り続けてほしかったという思いが募ります。それはともかく、広島の路面電車は京都市電のような公営ではなく民間事業者である広島電鉄が運営していますから、広島市電とは言わない理由もそこにあります。同社は東証2部上場会社であり、日本最大の路面電車事業者かつ中四国地方最大のバス事業者です。そして、これら運輸事業をメインとしつつ、関連する周辺事業にも積極的に取り組んでいることは言うまでもありません。
ところで、先週、広島ではちょっと話題になるニュースが流れました。実は、この広島電鉄が運営(正確には子会社の経営)するホテルの廃業が伝えられたのです。JR広島駅にほど近い「ヒロデン」の名称が冠されたホテルは、同社グループの関連事業の一翼を担ってきたものの、コロナ禍によって収益が大幅に悪化した上に建物の老朽化に伴う改修に多額の投資が必要になることから事業継続を断念し、46年の歴史に幕を閉じることになったようです。
運輸事業者にとって、ホテル業はシナジー効果があってこその併営ですから、将来その効果が見込めないのであれば、廃業という選択もやむを得ないのでしょう。コロナ禍とはいえ、苦渋の決断であったことは想像に難くありませんが、これは何も広島に限った話ではなく、他の地域とて例外ではありません。たとえば、ここ京都でも窮境に陥ったホテルの廃業の噂が耳に入ってきているのも事実です。GoToキャンペーンが復調のきっかけになれば幸いですが、ホテルにとって付加価値の高い宴会部門の回復にめどが立たなければ、出口は見えそうにありません。