過日、非正規職員に賞与や退職金が支払われなかったことの是非が争われた2件の訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は、「非正規と正規の職務の内容に相違があったことは否定できず、不支給は不合理とはいえない」との判断を示しました。一方で待遇格差の内容次第では「不合理とされることがあり得る」とも述べています。
非正規職員への不合理な格差は、労働契約法旧20条で禁じられていましたが、現在その条文は見当たりません。それは、いわゆる働き方改革関連法の整備の中で、労働契約法旧20条が「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム契約法)8条に統合されたからです。これをきっかけに法律の名称も「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)に変更になりました。ややこしいですが、要は非正規職員に対する不合理な待遇を禁止する一方、不合理でない格差は容認されるという話しです。最高裁も今回の訴訟では「格差は不合理とまではいえない」と結論付けたものの、「不合理とされることがあり得る」と釘を刺したのも、その点を意識しているのだと思います。
しかし、現状では非正規職員に賞与や退職金などを支払うケースは少ないのが実情ではないでしょうか。仮に正規と同様の支払いが必須だということになれば、労働コストは確実に高くなるわけですから、企業の経営戦略にも少なからぬ影響を与えることになります。繁忙期に非正規職員を多数雇用し、機動的に労働力を投下していた業界の慣行も変化するかもしれません。私たちの業界においても、所得税の確定申告シーズンや3月決算5月申告の繁忙期に非正規職員の力を借りている事例は少なくないようですから、影響は必至と言えます。
こうした非正規職員の待遇を改善すること自体に異論はありませんが、それは間違いなくコストの増加要因になります。そのコストはいずれ対価へ転嫁されることになりますから、モノやサービスの価格は確実に引き上げられることになります。待遇は改善されても生活費の負担は増えると覚悟しておくべきでしょう。経済はそういう循環で回っているのです。