トラブルを解決する最終手段としての訴訟ですが、それがベストの方法とは限りません。あるいは、訴訟に至る手前で解決を図る調停手続きも一つの知恵ですが、本来は当事者間での円満な話し合いによる平和的解決こそが何よりなのです。その意味で、日頃から「裁判所の世話になるのは得策とはいえない」と言い続けています。
この点、最近の税務に関する訴訟の判決文に目を通すと、訴訟に至る経緯や訴訟をすること自体の是非など、その顛末に疑問を抱かざるを得ない事案が散見されます。まして、事柄の性質上、そこには例外なく税理士が関与していますから、「専門家が関与しながら、何故?」という疑問は深まるばかりです。
例えば、法人税の申告期限を徒過したために青色申告の承認を取り消された会社が顧問税理士に対して損害賠償請求をした事案があります。裁判所は会社の請求を棄却しましたが、決算に一部未確定事項があったとしても、とりあえず期限内申告をしておき、後日未確定事項が解消した時点で修正申告をすれば済む話ですから、顧問税理士の知恵のなさには首を傾げるばかりです。また、税務調査に際して事前通知がなかったことに反発した顧問税理士が税務調査を執拗に忌避した結果、課税庁から消費税の仕入税額控除を否認されて巨額の追徴課税を受けることになったのですが、それを不服として行政訴訟に及んだという事案があります。結果は、一審、二審ともに課税庁側に軍配が上がっています。
顧問税理士と会社、顧問税理士と課税庁の関係には、ビジネスとしての緊張感と職業的専門家としての矜持が求められます。その意味で、会社の主張や課税庁の意向に唯々諾々と従うだけではなく、「是は是、非は非」の姿勢で臨むことも肝要です。とはいえ、一方で振り上げた拳の降ろしどころも考えずに事を荒立てて訴訟による解決を図ろうとしても、必ずしも望む結果は得られません。ここは文字通り、専門家としての知見を駆使して大人の知恵を働かせなければならないのですが、残念ながら、そのようなノウハウは教科書には書かれていません。知識も経験も十分でないままに独立した若い税理士には望むべくもないノウハウといって良いでしょう。