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2020.05.25|CEOコラム

巨悪を眠らせるな~CEOコラム[もっと光を]vol.16

 かつて「ミスター検察」と呼ばれた故伊藤栄樹氏。検事総長就任時のインタビューで「特捜検察の使命は巨悪退治です。私たちが"巨悪"と闘う武器は法律です。検察官は"遠山の金さん"のような素朴な正義感をもち続けなければなりません」と語り、部下に「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」と訓示したと聞き及びます。

 氏は、今から遡ること32年前の1988(昭和63)年3月に定年まで1年10か月を残して検事総長を退いた後、体調を崩されて同年5月25日に他界されました。享年64歳、今日は奇しくもその命日です。また、先日、賭け麻雀を理由に辞職した前東京高検検事長が任官したときの東京高検検事長が氏であったというのも歴史の偶然とはいえ、皮肉なものです。

 筆者は、氏が法務省事務次官、東京高検検事長時代に筆を執られた『だまされる検事』と題するエッセイ集に記された一節を鮮明に覚えています。その記憶を確かめるべく久しぶりに書棚にある書物を手に取りました。背表紙は少し色褪せていましたが、貼られた付箋は当時のままです。少し長くなりますが、その一節を紹介します。
 「かくて、検察は、”目に見えない犯罪”、つまり、公務員の汚職、大がかりな脱税その他の悪質な経済事犯など、直接の被害者のない悪を剔抉すればよいことになる。直接の被害者がないということは、全国民が被害者だということであり、それを眠らせておけば、社会が内部からむしばまれ、ひいては、その崩壊の危険につながる。検察は、いつもこの分野に目を光らせ、眠っている悪を見つけ、これを大きい順番に、つまり巨悪から捕まえていかなければならない。目に見えない悪をどうやって見つけるか、また、見つけた悪にどうやって大小の順番をつけるか。その方法はただ一つ。検事がいつも庶民の心を失わないことである。庶民がその素朴な正義感で、何に憤り、何を巨悪と認識するかを自分の体で感ずることができねばならぬ。」(伊藤栄樹『だまされる検事』立花書房、1982年、pp22-23)

 息を吐くように嘘をついて刑事告発される首相をはじめ、賭け麻雀に興じる前検事長や選挙運動で買収行為に及ぶ前法務大臣など、剔抉すべき対象が相次ぐ現状に、氏が存命であったなら、どのようなコメントをされたでしょうか…

(筆者注:剔抉(てっけつ)とは、「悪事などを、あばき出すこと」)
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