1.2024年10月から最低賃金(全国平均)が50円引き上げ
最低賃金は、毎年10月1日に上がります。現在は1,004円が全国平均ですが、50円アップの1,054円になります。因みに、現時点で最低賃金が最も高いのは東京都の1,113円、一方最も低いのは岩手県の893円です。最低賃金は、社会保障の役割とみなされ、生活水準に比例し都道府県ごとに決まります。昨年、岸田首相はこの最低賃金を2030年半ばまでに1,500円にするという目標を表明しました。しかし、諸外国に比べたら日本の最低賃金は非常に低いです。例えば、米国のワシントン州は16.28ドル(2,392円)、豪州は24.10豪ドル(2,334円)、英国は11.44ポンド(2,146円)と日本の倍以上、お隣の韓国でも9,860ウォン(1,084円)と日本より高額です(※1)。このように、日本の最低賃金は先進国の中では大きく見劣りしています。
(※1)1ドル=146.97円、1豪ドル=96.85円、1ポンド=187.62円、1ウォン=0.11円の為替レートで計算
日本の労働人口はどんどん減少しています。このまま人口が減少していったら外国人に頼らないといけなくなります。そうなると、外国人を呼び寄せなければなりませんが、賃金を高くしないと外国人は来ません。10年後に1,500円といっても、現在米国は2,300円です。全然足りていません。そのため、世界的にも賃金が低いと言われているのです。サービスの質は高いのに賃金が低い状況です。
日本はそもそも労働生産性が低いと言われています。日本特有のおもてなしは、売上には繋がりませんが、プラスαのサービスでお客様満足度を上げています。一方、諸外国ではサービスは全部お金に変えます。米国に行ったらチップは当たり前ですが、日本でおもてなしをしてもチップはありません。だから、生産性が悪いのです。国際競争力を付けていかなければならないため、日本政府は、生産性の高い企業に人が転職していくような流れを作っています。最低賃金を上げると中小企業は厳しく、給与が払えなくなってきます。そうなると、給料が高い会社に労働者がどんどん転職していく、つまり生産性の高い会社に良い人材がたくさん集まり、より生産性が高くなります。そして、国際競争力に勝つ会社がどんどん増えていくのです。国はそれを狙っています。
2.中小企業への影響
最低賃金で働いているのは、パート・アルバイトの人が多いです。1時間50円上がると、1週間に20時間働くパートさんなら1週間で1,000円、1か月(4週間)なら4,000円、年間なら48,000円増えます。そうすると、企業の負担が一人当たり年間約5万円増えます。10人いたら50万です。結構大きいです。それだけ増えてくると、今まで社会保険料を支払わなくてよかった人が年収の壁(106万の壁、130万の壁)を超えることによって社会保険料を支払わないといけないケースが出てきます。社会保険に入ると会社と従業員それぞれが負担することになるため、賃金も社会保険料も増額になり、会社にとっては踏んだり蹴ったりです。従業員にとって時給が上がることで給料が増えるのはよいですが、扶養から外れ社会保険に加入することになれば、逆に手取りが減るというケースも出てきます。さらに、税金が掛かってくる場合もあります。最低賃金が上がったからといって、そのまま手取りが増えるわけではありません。これは、税金・社会保険料を取るための国の策略です。
そうなると、大抵の従業員は、税金も社会保険料も今まで支払っていないのに何で支払わないといけないのか?と思い、休みを増やします。結局、休みを増やし働く時間を減らすため、年収は今までと変わりません。働く時間を減らして今までと同等の年収をもらえたらそちらの方がよいと考えます。そうなると、企業側は人手不足で働き手が欲しいのに、従業員に働いてもらえなくなります。一方、社会保険料や税金も支払わないといけないくらいの年収になった従業員は、もっと働いてもっと稼ぎたいという方にシフトするかもしれません。そうしたら、時給の高いところに転職します。
しかし、昨今の物価高騰では、時給が50円上がっても物価上昇率に賃金が追い付いていません。電気代、食品など様々な物価が上昇しているため、50円では全く足らないと言う意見もありますが、50円以上上げたら、今度は中小企業が払えなくなるため、難しいところです。
3.今後の対策
最低賃金を払えないと人材が集まらないため、経営が成り立たなくなり倒産するという会社は絶対に出てきます。そのため、最低賃金を払える会社にしなければなりません。そもそも従業員は最低賃金の会社で働きたいと思わないため、最低賃金を基準にして給料を決めているような会社では成り立たないのです。もっと上の基準で競争に勝たないといけません。商売は、お客さんを獲得してなんぼの世界でもありますが、今は従業員を獲得してなんぼの世界です。従業員を獲得できないと会社は成り立たないです。従業員に選ばれる給料を出さなければなりません。最低賃金云々の話をしているようではダメなのです。もっと高い給料が払える、生産性向上を実現できる会社にしていかないといけません。
また、黒字の会社はもっと従業員に還元すべきだと思います。人件費を抑えすぎなのでは?なぜそんなに利益を残したがるのか?と思います。利益を残さず従業員に還元すれば、平均給与が上がり、人もどんどん集まります。そうすれば、無駄な採用コストはなくなります。「従業員に利益を還元→平均給与上昇→良い人材の確保→会社の利益増」というグッドサイクルを作ります。そこを目指していかないといけません。人件費をコストとして考えるのではなく、人件費を多く払うことを目的くらいにしていかないと、これからの時代なかなか難しいのではないかと思います。赤字の会社ほど最低賃金基準に給料を決める会社も多いのかもしれませんが、生産性を上げないと話になりません。そうしないと、国の狙い通りになってしまうため、どうやって少ない人数で利益を上げ、人件費に還元していくのかを考えて、戦略的にやっていかないといけません。
日本の中小企業は、利益を取り過ぎたら悪いのではないかと考える傾向にあるため、価格を上げることに抵抗があり、ギリギリでやる体質になっています。大企業の下請けをやっているとなかなか交渉が難しいのかもしれませんが、中小企業でももっと値段を上げていく必要があります。値段を上げられるビジネスをやっていかないと、おそらくこれからの時代は生き残れないのではないかなと思います。諸外国に比べたら、日本の最低賃金は米国の半分以下と非常に低く、労働人口も足りていないため、最低賃金を上げていかないといけません。しかし、そうすると今度は中小企業の経営が大変なことになり、今後倒産する会社は増えると思います。そのためにも、倒産する前に様々な戦略を立て、生産性の高い会社を作っていただければなと思います。
(文責:札幌事務所 渡部)