1.属人的株式とは?
本来株主はその保有する株式の種類・数量に応じて平等に取り扱われることとなっています。属人的株式とは次の3つの権利に関して、その保有する株式数にかかわらず、株主ごとに異なる取扱いができる制度のことです。
1.剰余金の配当を受ける権利
2.残余財産の分配を受ける権利
3.株主総会における議決権
この属人的株式を活用すると次のような要望に応えることができます。
・株主Aさんだけ配当を多く受け取ることができるようにしたい
・株主Bさんの議決権の行使ができないようにしたい
・株主Cさんの議決権を他の株主より多くしたい
具体的例を使ってもう少し詳しくみていきましょう。
発行済株式総数が100株で次のような株主構成となっている会社について考えてみます。
株主:甲 25株
株主:乙 25株
株主:丙 50株
通常1株につき議決権1個であるため、各株主の議決権数と議決権比率は次のようになります。
株主:甲 25株 議決権25個(議決権比率25%)
株主:乙 25株 議決権25個(議決権比率25%)
株主:丙 50株 議決権50個(議決権比率50%)
ここで、株主:甲が保有する株式だけ1株4議決権とする属人的株式を設定した場合を想定します。
すると各株主の議決権数と議決権比率は次のように変動します。
株主:甲 25株 議決権100個(議決権比率57.1%)
株主:乙 25株 議決権25個(議決権比率14.3%)
株主:丙 50株 議決権50個(議決権比率28.6%)
株主が保有している株式数自体は変わっていませんが、株主:甲の議決権数と議決権比率が増加しているのがわかりますね。この制度を活用すれば、議決権数を確保したまま後継者へ株式を移転することが可能になるのです。
2.属人的株式を導入する際の注意点
属人的株式は柔軟な設計が可能で円滑な事業承継をすすめるために有効な手段の一つですが、いくつか注意点があります。
まず属人的株式を設定できるのは、非公開会社に限定されています。ここでいう非公開会社というのは、株式の全てについて譲渡制限が付されている会社のことです。公開会社については属人的株式を導入することができません。
次に属人的株式は株主個人に着目して他の株主と異なる取り扱いをしますので、対象となる株主と会社の関係が良好である間は問題になりません。しかしその株主が会社と敵対してしまうなど、株主と会社の関係性が変わってしまった場合には安定した会社経営ができなくなってしまう可能性があります。また、認知症等によって株主が議決権を行使できないような事態も想定されます。
属人的株式を導入する際には、どのように運営していくのか?また上記のようなリスクに対してどのように備えておくか?しっかり考えておく必要があります。
3.属人的株式を設定するための手続き
それでは、属人的株式を設定するためにどのような手続きが必要となるか解説していきます。
属人的株式を導入するためには、株主総会の承認によりその属人的株式の内容を定款に定めなければなりません。
通常の定款変更であれば株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)で足りますが、属人的株式設定のための定款変更には特殊決議(議決権の4分の3以上)が必要です。
通常株主総会の定足数は「議決権の半数以上」ですが、特殊決議の場合は定足数が議決権数ではなく「株主の半数以上」となっており、この点についても特別決議よりも重いといわれています。
また、決議に必要な株主数及び議決権数は、定款で加重することも可能です。
4.「属人的株式」と「種類株式」は何が違うのか?
属人的株式とよく似た制度として種類株式があります。
属人的株式が「株主」に着目して取り扱いを差別化する制度であるのに対し、種類株式は「株式」に着目した制度です。そのため、相続や贈与をきっかけに株式が他人に移転した場合、「属人的株式」の場合は効力がなくなりますが、「種類株式」の場合は、その株式を取得した新たな株主において効力が継続します。
また、属人的株式が①剰余金の配当を受ける権利②残余財産の分配を受ける権利③株主総会における議決権という3つの権利についてのみ株主ごとに異なる取り扱いができるのに対し、種類株式は次のように9種類あります。
- 剰余金の配当
- 残余財産の分配
- 議決権の制限
- 譲渡の制限
- 取得請求権
- 取得条項
- 全部取得条項
- 拒否権
- 役員選任権
種類株式は属人的株式と違って、登記されるというのも大きな違いの一つです。属人的株式の内容は定款には記載されますが登記されませんので、基本的に第三者にはわからないようになっています。
「属人的株式」と「種類株式」は非常によく似た制度ですが、相違する点も多々ありますので、どちらが自社の課題解決に適切かしっかり検討することが必要です。
5.最後に
今回紹介した「属人的株式」は柔軟な設計が可能で大変便利な制度ですが、事業承継を成功させるためには、どのような内容の株式にするのか、将来的にどのように運用していくのかをしっかり設計しなければなりません。
導入を検討する際には必ず専門家にご相談ください。
(文責:京都事務所 首藤)
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