1.役員報酬は定期同額給与
会社が役員に支払う給与は、毎月決まった金額で固定されており、「定期同額給与」と呼ばれます。定期同額給与を変更する手順は次のとおりです。
- 株主総会を開く
- 議事録を作成する
- 金額を変更する
定期同額給与はこの手順どおりに変更をしないと、役員報酬と認められません。損金として計上できないため、役員報酬の変更のタイミングによっては法人税と個人所得税が2重に課税されます。
2.役員報酬変更のタイミング
役員報酬の変更は決まったタイミングで行わなければ税の負担が増えてしまいます。役員報酬を変更するタイミングごとに、税務上どのような取り扱いになるか、以下で確認しましょう。
期首から3カ月以内
役員報酬の変更は事業年度開始の3カ月以内に行います。この時期であれば、役員報酬を損金算入できます。ただこの時期であっても、一度しか改定はできません。
なぜ役員報酬の変更がこのように厳しいかというと、利益操作の防止のためです。
期首から3カ月経過後
役員報酬を事業年度開始の4カ月目以降に変更したときの取り扱いを解説します。
増額する場合
役員報酬を期首から3カ月経過後に増額した際は、増額分の損金算入ができません。
(例)
期首は4/1であり、月50万円で決定した役員報酬を、8月から月70万円に増額
- 損金算入できるのは毎月50万円
- 差額の20万円に対しては法人税が発生
例外として次の項目に該当すれば、3カ月経過していても損金算入できます。
- 新しく役員になった場合
- 昇格した場合
このとき増額が認められるのは新しい役員と、昇格した役員のみです。ただし、役員になったものの業務内容が役員としてふさわしくないときや、肩書きを変更しただけで実態が伴っていなければ認められません。
減額する場合
役員報酬の増額と同様に、減額も原則は認められません。
(例)
期首は4/1であり、月50万円で決定した役員報酬を、8月から30万円に減額
- 4~7月も損金算入できるのは30万円
- 4~7月の差額20万円に対しては法人税がかかる
しかし、経営状況によってはどうしても役員報酬の変更を余儀なくされることもあるでしょう。以下に挙げる特別な理由があるときは、例外として減額が認められます。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
※引用:役員給与に関するQ&A│国税
3.役員報酬変更の手順
役員報酬の増額・減額は一般の従業員とは異なり、所定の手続きが必要です。本章では、役員報酬変更の流れを説明します。
1.株主総会で決議
役員報酬の変更には株主総会などの開催が必須です。株主総会とは、会社の重要事項を決定する大切な会議のことを指します。株式会社でなく合同会社であれば、社員総会を開き役員報酬の変更を決定します。
株主総会で意思決定した内容は議事録を作成して書面にしましょう。合同会社は議事録ではなく「同意書」を用意し記録を残します。議事録や同意書には、総会の開催日時、場所、出席者、報酬を変更する役員名、変更額を記載し、出席者の署名・捺印が必要です。
議事録や同意書がないと税務調査の際に変更内容が証明できないので注意しましょう。
2.社会保険料の変更手続き
役員報酬を変更したら、社会保険の手続きが必要となる可能性があります。報酬額を変更後は、手続きの対象になるか確認をしましょう。
社会保険は給与などの毎月の固定された報酬額が変更となった場合、保険料の見直しを行うこととされています。この手続きを「随時改定」と呼びます。
1カ月分の給与額が大きく増減し、社会保険の標準報酬月額に2等級以上の変動が発生するときは社会保険の手続きの対象です。
4.【まとめ】
役員報酬は変更のタイミングにより、損金算入の扱いが変わります。役員報酬の増額・減額は、事業年度開始日から3カ月以内に行うのが原則です。
事業年度開始日から4カ月目以降は増額すると法人税がかかり、役員報酬が損金になりません。減額であれば例外が認められていますが、特別な理由が求められます。
役員報酬の変更はタイミングを押さえて必要がある場合にのみ行いましょう。
※当社では、顧問契約を締結しているお客様以外の個別の税務相談には対応いたしかねます。何卒ご了承ください。
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