1.節税効果
国が連鎖倒産を防止する目的で設けた制度ということもあり、払った掛金は、法人の場合は損金に、個人事業主の場合は必要経費に算入できるという税制優遇措置が受けられます。
いっぽう、解約したときに受け取る解約手当金は、法人の場合は益金に、個人の場合は収入になります。
2.具体例
法人を例に具体的な金額で効果を見てみましょう。
【掛金支払期間中】
○計算を簡単にするために、法人税等の実効税率を35%とします。
○支払った掛金は損金になりますから、支払った掛金の35%に相当する法人税等の負担が少なくなります。掛金を800万円に達するまで支払い続けた場合、800万円の35%に相当する法人税等の負担が280万円少なくなっているので、差し引き520万円の資金を用意することで800万円を積み立てることができたことになります。
【解約時】
○40か月以上納めていると、解約しても掛金の100%を受け取ることができるので、ここでは40か月を経過した後に解約をしたものとします。
○すると、800万円の解約金を受け取ることができ、この解約金は益金になります。このとき、800万円の益金に対して35%に相当する法人税等280万円を負担することになります。
【効果】
○これらの結果、掛金を支払っていた期間中に負担が減った280万円の法人税等が、解約した年度まで先に延びました。このことを一般的に経営セーフティ共済の節税効果と呼びます。節税というよりも、利益と税の繰り延べと言えるかもしれません。
○この例は、掛金を支払っている各年度が黒字でかつ法人税等を払っていて、そして解約した年度では、仮に解約金を受け取らないでも黒字で、かつ法人税等を払わなければならなかった、という条件のもとに成り立つので、税の繰り延べの計算は、現実にはもう少し複雑な要素が入り込みます。
○なお、解約をしないで、本来の機能である共済借入をすると、第1回でお伝えしたように、掛金のうち借入額の10%分の権利が消滅します。この掛金は納入時においてすでに損金または必要経費になっています。
3.節税となる例
では、利益と税の繰り延べ効果しか期待できないのかというとそうではなく、節税になる場合も確かに存在します。以下に節税となる具体例をいくつか挙げますが、企業の業績と利益を複数年にわたって思いのままにコントロールすることは至難のことなので、結果として期待したような節税になった、あるいはならなかった、ということもあり得ます。
○例1
中小企業の年800万円以下の課税所得には軽減税率が適用されます。年800万円の課税所得を超える事業年度に掛金を支払うことで繰り延べられた法人税等を、年800万円の課税所得を超えない事業年度に解約することで、相対的に低い税率で法人税を負担することにより生まれる差額の節税。
○例2
近年は、国際競争もあって段階的に法人税率が引き下げられてきましたが、過去に払った掛金を、過去に比べて低い法人税率になった後で解約したときの税率の差により生まれる節税。
ただし、新型コロナ対策の財政支出の拡大から、法人税率の引き下げトレンドは転機が到来し、今後はあまり期待できないと思います。
○例3
個人の場合は、所得税の超過累進税率に着目し、所得が高い、つまり適用される税率が高い年に支払った掛金を、所得が低い年に解約したときの累進税率の差により生まれる節税。
○例4
例1~3は法人、個人それぞれの節税の例でしたが、法人と個人を組み合わせた結果節税になる例もあります。それは、法人で解約時まで繰り延べた利益と税を、解約した事業年度に役員退職金などの損金と「ぶつける」ことで、法人の利益が個人の所得に移り、受け取った個人においては税制上優遇された退職所得として受け取ることを通して、法人と個人の税率の差、所得計算の違いにより生まれる節税。
4.経理方法の選択
掛金を支払ったときは、多くの法人はその掛金を損益計算書の保険料等の費用として計上をします。そうすることで利益が圧縮されて、支払った掛金も損金となるので税務上の取り扱いと一致します。
支払った掛金は将来解約した場合に支払われる解約手当金として資産価値があるにもかかわらず、貸借対照表に計上されない資産(いわゆる簿外資産)になります。
なお、掛金を支払ったとき、貸借対照表の資産に計上する経理方法もあります。資産に計上する方法でも、払い込んだ掛金は損金または必要経費にすることができます。
5.会社の財務内容への影響
ここでは、累積上限の800万円まで掛金を費用とした場合の財務内容への影響です。
○自己資本比率が下がること
800万円(法人税等の負担軽減分を差引後で520万円)の掛金が簿外資産になるので、その分だけ、純資産の金額が少なくなります。これは、利益と税を繰り延べた結果で、その代償です。借入をしている金融機関は、貸出先の貸借対照表を見るときに、含み益や含み損を純資産(自己資本)に足したり引いたりして実態の自己資本を割り出しているので、その事実をアピールしておくことも考えられます。
○資産価値のある資産への資金運用の一つと見ることもでき、その反対側に資金調達があること
上限額の800万円(法人税等の負担軽減差引後で520万円)の掛金は、支払時には会社の預金から支払われているので、その資金は何らかの形で調達されており、その調達コストを会社が負担していることになります。
6.貯蓄としての機能
経営セーフティ共済のあまり強調されることのないメリットとして貯蓄機能があります。すべての中小企業者にとって資金繰りの安定は最も重要な課題の一つですが、日頃から資金繰りに備えてお金を蓄えておくのは容易ではありません。たとえば普通預金に預けておいても簡単に引き出せるので、つい日常の資金繰りのために使ってしまいかねません。
こうしたときに経営セーフティ共済は、少しずつからでも積み立てることができ、40か月以上経過していれば、掛金全額をキャッシュとして受け取ることができるので、赤字になったときなど、資金が必要になったときのために備えることができます。
7.税務上必要な処理
この項目は、税務申告を税理士に依頼している場合は、税理士が適切に処理するはずなので特に気を付ける必要はありません。
○法人税の申告の際に、その事業年度において支払った掛金の額など所定の内容を別表十(七)に記載する必要があります。また、適用額明細書に条文や支出金額を記載する必要があります。
○所得税の申告の際には、任意の様式で、支払った掛金を必要経費に算入する旨の明細書を添付する必要があります。
8.まとめ
以上、第1回に続き2回にわたって経営セーフティ共済の制度と留意点について見てきましたが、経営セーフティ共済の節税・税の繰り延べ効果だけにとどまらず、本来の制度上のメリットや会社の財務諸表に与える影響も考慮しておきたいものです。新たに経営セーフティ共済を始めようとするときは、ぜひ、顧問税理士に相談してください。
(文責:東京事務所 今井)
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