1.法人化するタイミングとは
事業を法人化するにあたり、タイミングに悩む個人事業主は少なくありません。法人化のメリットを高めるためには、「利益額」「売上高」「事業展開」の3つに注目してタイミングを見極めることが大切です。
以下でそれぞれについて解説します。
利益が500万円を超える
個人事業主と法人では、以下のように課税対象が異なります。
・個人事業主:売上-必要経費=利益(事業所得)
・法人:売上-(必要経費+役員報酬)=利益(法人所得)
法人になると事業主の固定給を役員報酬として経費計上することが可能です。法人では、所得が法人所得と給与所得に区分され、それぞれの税率によって税金が決定します。
所得税は累進課税方式(所得に応じて税率が高くなる)が適用されますが、法人税の税率は一律です。利益が500万円を超える場合は、個人の収入を役員報酬に切り替えた方が節税につながる可能性が高くなります。
売上が1,000万円を超える
事業形態にかかわらず、売上が1,000万円を超えると翌々事業年度から消費税の納税義務が発生します。得意先から預かっている消費税が仕入れなどに支払った消費税を上回っている場合、申告と納税が必要です。
しかし、事業を法人化すると、個人事業主に対する消費税の納税義務が消滅します。消費税の課税は前々事業年度の売上によって決まるため、法人設立から2年間は納税のタイミングを遅らせることが可能です。
ただし、特定規定により法人設立時の資本金が1,000万円以上の場合は、設立初年度から消費税の課税対象となるため注意しましょう。
事業を拡大(新規事業の展開)
法人は、個人事業主に比べて事業の拡大や新規事業の展開を有利に進められます。法人が事業拡大や新規事業の立ち上げに有利な理由は、以下の2つです。
・必要な人材を確保しやすい
・資金調達がスムーズに進む
なかには、個人事業主とは取引をしないと決めている会社もあります。取引先を拡大する予定がある場合は、法人化も視野に入れましょう。
2.法人化するメリットとは
事業を法人化するメリットは、以下の3つです。
- 節税対策に有効
- 社会的信用を得やすい
- 社会保険に加入できる
事業の成長に向けて効果的な法人化を目指すために、それぞれのメリットについて理解を深めておきましょう。
節税対策に有効
家族に支払う給料を経費計上できることが、法人化のメリットの一つです。経費が多くなれば、それだけ節税にもつながります。個人事業主も届出の提出と青色申告によって家族へ支払う給料を経費計上できますが、限度額(届出の金額)を超えた経費計上はできません。
さらに、個人事業主は損失繰越が3年間であるのに対して、法人は10年間黒字と相殺することができます。
社会的信用を得やすい
社会的信用を得やすいことも、法人化の大きなメリットです。個人事業主と違い、法人は責任も大きく簡単に事業を停止することができません。そのため、取引先や金融機関は安心感を持って取引を行えます。
また、会社の信頼度が高まれば、人事採用で優秀な人材や専門知識が豊富な人材をスムーズに集めることも可能になるでしょう。
社会保険に加入できる
法人は雇用人数にかかわらず社会保険の加入が必須です。事業主のみの会社でも必ず加入しなければなりません。そして、社会保険料の半分は会社が支払います。
社会保険に加入することで事業主や会社側が得られるメリットは、以下の通りです。
- 事業主の老後の年金を増やせる
- 傷病手当金の給付がある
- 福利厚生が充実する
- 離職率の低下につながる
社会保険の加入には費用が発生しますが、社会保険は国民年金や国民健康保険に比べて補償が手厚く充実しています。
3.法人化するデメリット
法人化には、以下のデメリットがあります。
- 赤字でも税金を支払わなければならない
- 会計や事務手続きが複雑化する
- 法人の設立と閉鎖に手間がかかる
それぞれのデメリットについて正しく理解した上で、法人化に向けた準備を行いましょう。
赤字でも税金を支払わなければならない
法人の場合、年間の利益が赤字でも必ず税金や保険料を支払わなければなりません。法人住民税の均等割の申告と納付は、都道府県税事務所や市町村役場で行います。納税額は、年間約7万円が目安です。
赤字の年は所得税や住民税を支払う必要がなかった個人事業主にとって、事業が軌道に乗るまでは税金の支払いが負担となる場合があります。
会計や事務手続きが複雑化する
法人は個人事業主に比べて経営の規模が大きくなるため、事務処理の複雑化が避けられません。税金や保険料の計算や書類作成など、これまで自身や社内で対処できていたことも税理士や公認会計士などに委託が必要となる可能性があります。
専門家のサポートを受けるとなれば、委託費用がかかります。業務の複雑化と委託費用の発生は、法人化のデメリットの一つと言えるでしょう。
法人の設立・閉鎖に手間がかかる
法人化には「商業登記」が必須です。商業登記は、必要な書類をそろえて管轄の法務局で申請を行います。また、登記内容の変更時も手続きを行わなければなりません。
事業を閉鎖する場合は、「解散登記」「清算結了登記」を行います。また、解散から清算に伴う税金の計算・残余財産の分配・納税などの手続きも必要です。
4.まとめ
個人事業主が法人化を目指すなら、メリットが大きくなる3つのタイミングに注目しましょう。利益が500万円を越えたり売上が1,000万円を超えたりするタイミングなら、法人化によって節税につながる可能性があります。事業拡大のタイミングであれば、人材確保や資金調達に有利です。
事業の法人化には、「節税効果がある」「社会的信用度が向上する」などのメリットがある一方で、「赤字でも法人住民税の均等割が発生する」「事務手続きの複雑化する」などのデメリットがあります。
事業の成長のために法人化を目指すのであれば、メリットだけでなくデメリットについても理解を深めて経営方針を検討しましょう。
※当社では、顧問契約を締結しているお客様以外の個別の税務相談には対応いたしかねます。何卒ご了承ください。
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