1.相続財産の課税財産とは
まず民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と規定しています。一方で相続税法第2条第1項は相続税の納税義務者については、「その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し課税する。」旨を定めています。このことから相続開始時において、被相続人に帰属していたと認められる財産はその名義に関わらず相続税の課税財産に含まれることになるというのが名義預金を相続財産として課税する根拠とされています。
2.名義預金の判定方法
税務署がその家族名義の預貯金を名義預金として相続財産に含めるのか、あるいは名義人本人の預金として認めてくれるのかは次の様な基準で判断しています。
① だれが財産を拠出したか だれが財産を拠出して預金を作ったのか、名義人の家族が自らの財産を拠出して作った預金であれば名義預金ではなく名義人固有の財産であることになります。 しかし、家族名義の預金の拠出者がその名義人と断定できない時は以下のような検討がなされます。
② 管理運用者・利益の享受者で判断する 財産を拠出した者がはっきりしない場合、通常は預金の預け入れを行った者、銀行印や通帳を保管した者、利息を受領している者、預金を引き出したり解約できる者が常識的にその預金の拠出者でありその者に帰属する預金だと判断するのです。例えばお孫さんの名義の預金であっても預金通帳と銀行印はお父さんが生前管理していたのであればお孫さんの名義であってもお父さんの相続財産と判断されかねないということです。過去に贈与税の基礎控除の範囲内で贈与を受けたと税務署に主張するのであれば、贈与を受けた金銭は受贈者自身が自由に使ったり運用できる状況に置くことが重要です。
③ 内部関係を検討する
なぜ家族名義で預金されていたのか、贈与はあったのか、なぜ被相続人が管理しているのか等を総合的に判断します。実務上は贈与の有無が問題となることが多く、お父さんが孫名義の預金を作ったとしても贈与が完成していれば名義預金ではなく孫の預金として認められることになります。総合的に考慮という文言からも分かる様に余り無理な主張は認められないと思います。
3.相続税の税務調査で狙われる名義預金
どの様なケースで税務署より名義預金の指摘がなされるのでしょうか具体的に2ケースを例示します。
① 被相続人の譲渡代金を家族名義の預金にしている場合 不動産の売買は度々起こることではありません、例えばお父さんが生前不動産を売却した場合一度に高額な代金が入りますのでペイオフ対策などでお母さんや子供や孫の名前で預金を作ることがあります。相続税の調査になれば税務署は土地を売却した代金が預貯金や金融商品に変わり相続財産として申告されているかを調べますので家族の名義でつくられた預金が名義預金として指摘される可能性は多いと思います。
② 毎年110万円の家族名義の定期預金を作る場合 お父さんが生前、子供や孫の名前で毎年110万円ずつ定期預金を作ってあげているが、預金通帳や銀行印は子供や孫に渡さずお父さんが管理していたが贈与は認められるかという話はよく聞きます。このようなケースはお父さんからすると贈与税の非課税枠の範囲で家族に対し贈与済みとお考えだと思います。しかし実際に子供や孫はその定期預金を使える状況にはなく贈与は認められず名義預金としてお父さんの相続財産と認定されてしまうことがあるのです。
4.名義預金の指摘を受けないために
では名義預金として相続財産に含められないためにはどの様な対策をとればよいのでしょうか。
① 贈与の事実を証拠に残す 生前家族が贈与により取得したものであるなら贈与契約書作成します。この際贈与者と受贈者が本人の自筆で署名し押印することが望ましいと思いますパソコンで作ったものであれば死亡後でも作成ができてしまうからです。贈与税の申告が必要な金額の贈与を受けた場合は受贈者は贈与税の申告をしなければなりません。このように実際に贈与をしたのであれば受贈者に確実に贈与された証拠を残すことが名義預金の指摘を回避するのに有効です。
② 贈与を受けた現金や預貯金は受贈者名義の預金口座で管理する 例えば贈与者と受贈者が別居している場合その預金通帳や銀行印を受贈者の自宅で管理します。また以前より受贈者が利用している通帳で贈与財産を管理すれば贈与財産は受贈者の意思により管理・運用が可能となり贈与の事実の証明はより確実なものとなります。客観的にみて贈与を主張する預金が受贈者により使われた、また使うことができる
状況に置かれることが大切なのです。ご相談は、是非資産コンサルティング事業部までお願いします。
(文責:広島事務所 兼綱)
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