1.遺言3つの方式
遺言には以下の3つの方式が定められています。
この3つ以外の方式で作られた物は、遺言として法的効力を持たず無効となります。
エンディングノートは、このどの方式にも当てはまらないので遺言として認められないのです。
公正証書遺言
- 公証人役場で、公証人(法律家)に作成してもらうので一番確実な遺言。
- 全国で年間に11万件ほど作成されている。
- 家庭裁判所での検認手続が3つの中で唯一不要である。
自筆証書遺言
- 自分で手書きするだけなので作成費用がかからず簡単に出来る。
- 不備があると無効になる可能性あり。
- 遺言の作成件数は不明だが、遺言書の家庭裁判所での検認件数は全国で年間1万7千件ほど。
秘密証書遺言
- 「遺言の内容」を秘密にしたまま、「遺言の存在」のみを公証人に証明してもらう遺言。
- 中身を誰にも知られずに作れる。
- 公証人も内容を確認しないので、不備があると無効になる可能性も高い。
- 上記2つに比べて圧倒的に作成件数は少なく、年間100件程度。
2.有効な遺言にするためには?
遺言は、相続人にとっては強力な力を持っているので、民法で厳格なルールが定められています。上記3つの方式で作成した遺言の中身には、以下の3つが備わっている必要があります。
遺言内容のルール
- 身分に関すること(ex.子の認知)
- 財産の処分に関すること(ex.遺贈)
- 相続に関すること(ex.相続分や遺産分割方法の指定)
この3つに関すること以外は、遺言に記載があっても法的な効力は生じません。
形式のルール
公正証書遺言は、法律のプロである公証人が作成するので不備は考えなくてもいいでしょう。自分で書く自筆証書遺言、秘密証書遺言は次の点に注意して書く必要があります。
自筆証書遺言の場合
- 必ず紙に全文自筆。ワープロ書きは無効
- 日付、署名、押印必須。
秘密証書遺言の場合
- 手書きの必要なし。ワープロでも他人が書いた物でも可。
- 署名、押印必須。遺言内と封筒の印影が一致しないと無効。
意思能力の有無
遺言は、満15歳以上で「意思能力」がある人であれば誰でも作れます。この2つを持っている人は遺言能力があるとされています。
ですが、この「意思能力」の有無について、後々相続人間で争いになることがあります。「意思能力」とは、自分で物事を考えて判断し、その結果を認識出来る能力のことです。
つまり、本人が遺言の内容をちゃんとわかっているかどうかが重要なポイントとなってくるのです。この意思能力の有無を客観的に判断するため、よく裁判で引き合いに出されるのが、「長谷川式認知症スケール」です。
これは、認知症であるかを診断するために行われるテストの1つですが、事前にこのテストを受けて、一定基準を満たしていれば、後々紛争となった場合に意思能力があったと認められる重要な資料となります。
軽度の認知症と診断されていても、意思能力がないとまでは言い切れません。その場合は自筆証書ではなく公正証書で作るなど、なるべく能力があったと客観的に証明出来るような資料を多く残していくことが大切です。
3.無効とされた遺言の事例
せっかく遺言を書いても、無効になった事例が多くあります。
自筆証書遺言の場合
自筆証書では、遺言内容以前に形式的な不備で無効になることも多いです。
- 日付を、◯年◯月吉日と書いた
- 実際の作成日とは違う日付を書いた
- 紙ではなく、録画・録音で遺言を残した
- 夫婦2人で同一の証書で書いた
- 手が震えるので、他人に添え手をしてもらって書いた
- 赤のボールペンで斜線が引かれていた
- 添付の不動産目録が自筆ではなく、ワープロで打ったものだった
- 署名押印が、文書にはなく開封済みの封筒にだけあった
公正証書遺言の場合
公正証書遺言で無効になるのは主に前述の「意思能力」の有無です。
- 公証人が読み聞かせ時に、頷いただけで一言も言葉を発しなかった
- 当時認知症であったにも関わらず、複雑な内容の遺言であった
- 遺言作成の二ヶ月前に成年後見開始のために、医師が鑑定をしており、鑑定結果を受けて作成日の三週間後に成年後見が開始されていた
つい最近では、第二次世界大戦中に「命のビザ」を発給して6000人のユダヤ人をナチスの迫害から救ったとして有名な外交官、杉原千畝氏の妻、幸子さんが残した公正証書遺言が、作成時に本人は入院していて意思能力がなかったとして、相続人間で争いになっていました。一審では遺言は無効としたものの、控訴審では本人の症状は重くなく、作成翌月には退院して講演活動を再開していたとして、一転して遺言を有効とする判決を言い渡しました。
このように客観的に判断出来る証拠を多く揃えておくことが、有効性を証する手助けとなるでしょう。
4.まとめ
どういった形式かはさておき、遺言を書く人が年々増加する傾向にあることは、家庭裁判所や日本公証人連合会の統計上も明らかです。
遺言が普及してきたのは、メディアでの取り上げ回数が増え、インターネット上で簡単に遺言の知識を得ることが出来るようになったのも要因のひとつと言われています。
親世代の相続でトラブルに巻き込まれた方が、自分の時はトラブルにならないよう遺言で対策しておこうと作成されることも多いようです。家族が争いにならないために作った遺言が、かえって争いの火種とならないよう、専門家に相談しながら作成するのが確実と言えるでしょう。
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