1.事業承継税制の特例措置における役員就任要件見直しの解説
◆税制改正大綱に挙げられた重要な要件見直し
事業承継税制には個人事業主向け(個人版)と法人向け(法人版)があります。ここでは法人版事業承継税制(特例措置)による贈与に絞り、本措置と表記して解説いたします。
(1)役員就任要件の緩和
本措置では株式を受取る後継者の要件として3年以上役員等に従事していることが決められていました。しかし適用期限が3年を切るため、本税制を期限いっぱいまで最大限に活用できるよう、役員就任要件の見直しが行われます。
後継者要件 |
改正前 |
改正後 |
役員就任要件 (法人版:特例措置) |
贈与の日まで3年以上継続して 役員等であること |
贈与の直前において 役員等であること |
(2)本措置の期限厳守
令和7年度税制改正大綱の基本的考え方の中に、本措置の適用期限(令和9年12月31日)は延長しないことが明記されました。
「本措置は、中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上という待ったなしの課題を解決するための極めて異例の時限措置であることを踏まえ、適用期限は今後とも延長しない。」
◆事業承継税制の特例措置利用可否における要件見直しの影響
以上の見直しを踏まえ、本措置利用可否を判断する期間が延長されたことは望ましいことです。つまり後継者を誰にするか、当人を役員等に就任させるタイミングを最終決定するのが令和9年まで考えられることとなりました。
それでも現実的には、以下手続き期限を考慮した準備期間は限られています。
①令和8年3月31日までに提出が必須となる特例承認計画の提出および受理
⇒計画策定の時間および書類作成も考慮すると、今年(令和7年)末までに判断が必要
②令和9年12月31日までに到来する直前期の決算を元にした株価の算出(猶予される株価)
⇒3月決算の場合、令和9年3月期までに猶予される株価を抑える策を取ることが必要
⇒代表権の交代が行われることに加え、場合によっては高額な退職金支給など重大イベントが発生
2.本措置利用における留意点
◆株式以外のオーナー財産分与にも留意点あり
(1)当該株式以外の財産分与への配慮(遺留分対策)
本措置利用を通じて株式贈与を行う場合、後継者に当該株式の財産が分与されますが、その他の相続人が持つ遺留分を侵害する可能性を考慮する必要があります。
そのため当該株式がオーナー個人資産の50%超となる場合、「争族」とならないよう事前の対策が必須となります。
具体的には個人契約の生命保険受取人変更、遺言の作成、遺留分にかかる民法特例の適用(除外合意、固定合意)などを検討いたします。
(2)後継者以外の相続人にかかる税負担への配慮(株価対策)
本措置で贈与した株式評価額は、オーナーに相続が発生した場合、総財産額に組入れたうえで相続人全員の相続税を計算。その上で、後継者にかかる相続税から猶予された税額を差し引く形で税負担が軽減されます。
そのため税負担が軽減されるのは後継者のみであり、その他相続人が負担する相続税率は当該株式を含めた相続税率で計算されます。つまり当該株式の評価額を引き下げておかないと、その他相続人の税負担は軽減されないこととなります。
具体的な対策としては、本措置を利用する直前期末の株式評価額を低減させるためオーナーへの退職金支給を検討いたします。なお退職金支給後は、オーナーが経営に関与できないこととなります。
以上、ここでは基本的な考え方のみご紹介いたしましたが、「極めて異例の時限措置」であるため本措置を利用する際の制約や相続人全員への影響が大きくしっかりした承継計画策定が必要となります。しかも税務だけではなく、民法や会社法上の影響も同時に解決する必要があります。
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(文責:京都事務所 中祖)
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